サマセット7

ジョン・ウィック:パラベラムのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.8
ジョン・ウィックシリーズ3作品目。
監督は3作通じてチャド・スタエルスキ。
主演はシリーズ通じてマトリックスシリーズのキアヌ・リーブス。

前作ラスト直後。
殺しが禁じられたホテルコンチネンタル・ニューヨークにて、主席連合の12の主席の一人サンティーノを殺した最強の殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ)は、殺し屋の世界から追放処分となり、1400万ドルの賞金がかけられ、世界中の殺し屋に狙われることになる。
次々と襲撃を受けるジョンは、事態の打開のため、国外脱出を目指す。
他方で主席連合は裁定者を派遣。ジョンに協力したと見做した者たちにペナルティを課し、日系の殺し屋ゼロに執行を依頼する。
三度、ジョンの戦いが始まる…。

キアヌ・リーブス主演の大ヒット・アクションシリーズの3作目。
前2作に引き続き、超現実的な殺し屋の世界を舞台に、キアヌ・リーブスがほぼ本人の肉体を駆使して本格的なガン・アクションを見せ、前2作を上回る大ヒットとなった。
ジャンルムービーにしては批評的な評価が高いのも前2作同様である。

今作では、ジョンはいよいよ間断なく刺客に狙われる状態となり、ひたすら戦闘が続く。
その中で、ジョンの古巣の組織や、モロッコ・コンチネンタル、主席連合の裁定者、日系の暗殺者ゼロ率いるアジア系暗殺集団など、新たな人物・組織が次々と現れ、それぞれ濃いキャラクターたちが登場する。

今作の魅力は、新規軸を打ち出し続ける殺し屋アクションのバリエーションの豊富さと、出てくるキャラクターの面白さにある。

今作の各アクションは画期的と言ってよい。
監督チャド・スタエルスキはスタントマン出身で、マトリックスではキアヌのスタントマンを務めた人物。
今作でもキアヌと共にアイデアを出し合ったとのことで、なるほど見たこともないアクションが頻出する。
本を使った戦闘、投げナイフを使った戦闘、多数の馬を活用した戦闘、戦闘の訓練を受けた犬と連携した戦闘、防弾服を見に纏った敵集団を相手にした戦闘、そして、刀を使う戦闘…。
キアヌ・リーブスも50代にしてよくもまあ、ここまで多様なアクションに挑戦するものだ。
ほとんどのアクションが多数を相手にした戦いであり、動きは複雑。
各動きの演出は相当計算されていると思われる。
終盤近く、バイクに乗ったジョンの後方から、これまたバイクに乗った複数の暗殺者たちが一糸乱れぬ動きで追跡、全員が一気に刀を抜く!!!というシーンがケレン味溢れていてカッコよく、特に印象に残った。

前作のコンチネンタルホテルの面々や路上のキングなどのキャラクターに加えて、今作では新キャラが多数登場する。
ソフィア、裁定者、首長、ジョンの古巣の女ボスなど濃い面々が次々出てくるが、特に印象的なのは、今作の最大の敵、ゼロ。
怪しげなカタコトの日本語(オマエコロスノオレシカイナイ!)を操り、寿司を握って刀を得物にする、という明らかに日本をモチーフにしたキャラクターだが、ジョン・ウィックの大ファンを公言するなど、とにかくエキセントリックな言動が目を惹く。
演じるマーク・ダカスコスはハワイ出身のアメリカ人だが、祖母が日本人。
カンフーの大会で優勝経験のある本格アクション俳優で、今作でも鋭い動きを魅せてくれる。
なお、当初は真田広之が演じる予定だったとか。その場合どうなっていたか興味深い。

今作のストーリーは、かなり破天荒なものである。おそらくは、撮りたいアクションシーンが先にあり、ストーリーはアクションの辻褄を合わせるように作る、という作り方をしていると思われる。
一言で言うと、ジョン・ウィックがひたすら酷い目に遭う、という話。
前作で殺し屋世界のルールに抗った故の結果だが、他方で今作のジョンは殺し屋世界のルールや誓いを最大限に利用して逃げ切ろうとしており、行動に一貫性があるのかないのか、評価が分かれるだろう。
犬の仇にマフィア皆殺し、がジョン・ウィックなので、行動の合理性など考える方がナンセンスなのかも知れない。

ラストの展開は、明らかに続編を意識したもの。
現時点でシリーズ第5作まで製作が予定されているとのことで、まだまだ楽しませてくれそうだ。

今作のテーマは、多様なアクションの可能性、というところか。
このレベルのジャンルムービーにテーマ性を云々するのも野暮かも知れない。
大きな世界のルールと、それに抗おうとする個人の苦闘をテーマとした作品、という見方も出来なくはない。
普通は圧殺されるだけで終わるところだが、最強の殺し屋ジョン・ウィックならひょっとすると、という凡人の夢がジョンには託されている。

もはややりたい放題やって、さらにヒットして結果まで出してしまう、殺し屋アクションの快作。
終盤、ゼロの弟子2人とジョンが戦うシーン、アクションは今作で1、2を争うキレを見せる一方、ジョンをレジェンドとして尊敬するやりとりがどこかコミカルで楽しい。
役者はインドネシアのアクション映画、ザ・レイドシリーズに出ていたシラットを操る2人。
アジアのごった煮感半端ないが、アジアの俳優がピックアップされるのを見るのは嬉しいものである。