Monsieurおむすび

運命は踊るのMonsieurおむすびのネタバレレビュー・内容・結末

運命は踊る(2017年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

イスラエル軍に所属する息子の訃報が届く。
卒倒する母ダフナから、立ち尽くす父ミハエルへ旋回するカメラ。この冒頭の数分のショットに胸を掴まれる。

不気味なほど片付いた無機質な部屋で感情を押し殺すミハエルは後に誤報であったと知ると、すぐに帰還させるよう激昂する。諫めるダフナの言葉も聞かず、ミハエルは軍人や親族を突き放す。なぜ彼はこんなにも取り乱したのか?

場面は息子ヨナタンへ。国境付近で検閲と警備をする若者4人は無限の荒野と、どこまでも高く青い自由な空の下で「怠惰な任務」と言う自閉性に神経をすり減らしていた。

ある夜、訪れた若者達を誤って射殺してしまう。事件は隠蔽され、ミハエルの訴え通りヨナタンは1人だけ帰還を命じられる。

場面は再び夫婦へ。ミハエルを罵るダフナ、彼らの会話からヨナタンが死んだ事が分かる。そしてミハエルは語り出す、何気ない自分の判断で仲間が戦死した過去を。。。
エピローグでは1人帰還するヨナタンの車がラクダを避けようと崖から転落する。

ミハエルの母はホロコーストを生き延びた1人、母の苦労を知るミハエルは感情を抑えて生きてきたのだろう。従軍したレバノン侵攻でのトラウマに今も苦しめられている。そして、息子の死の誤報を受け、息子を救おうと軍に掛け合う。皮肉な結果を招くとも知らずに。。。

イスラエルという戦争が日常となった国。奪われ、奪ってきた生命はこの国が背負う罪と罰。若者として戦地へ送り出され、後に送り出してきたこの国の人々は、巡っている不条理を運命と呼び飲み込んでいる。

印象的なのはヨナタンの死の誤報は同姓同名の別人だった。息子の無事を喜ぶだけで他の誰かの犠牲を偲びはしない。
悪意のない生命の軽視という象徴的な場面。

重苦しいテーマを三部構成で確然させ、各部での感情を際立たせている。この構成に加え、カメラワークはエッジが効いていてスタイリッシュ。ユーモアすら感じる。とにかく全てが計算された作品。名作。
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