好意と愛の違いについて、極限状態に置かれた一人の女性を軸に自らの哲学観を語ってみせるファスビンダー。
しかし金を手にするほど(身なりが整っていくにつれて)彼女の心は壊れていくし、母と住んでいた半瓦解の家にそぐわぬ盛装で帰郷するマリアは明らかにその場から浮いた存在となってしまう。
一応反戦映画でもあるのだが、そのカテゴライズに抵抗を覚えるのは戦争に先立って性愛が前面に押し出されているからで、そこに人種・性別の壁は隔たっていないが、マリアの幸福だけが結実しない鬼畜が横たわってる。
「結婚」を目的とした彼女がその手段としての資本に溺れていく展開に悲痛さが欠けているのは保守的な女性らしさ、妻としての貞操が良くも悪くも欠けているマリアの振る舞いが時代に"悪"と見なされてしまうから。
全ては夫と暮らすための画策だったのにその夫とだけは幸せになれない、二人の思惑が虚しく愛からも金からも乖離して爆発する残酷なラストは予測こそできたがやはり良い。