Inagaquilala

シップ・イン・ア・ルームのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

シップ・イン・ア・ルーム(2017年製作の映画)
3.6
東京国際映画祭コンペティション部門の1本。「シップ・イン・ア・ルーム」というタイトルに惹かれて観賞。人生で初めて観るブルガリア発の作品。冒頭の走る列車から写した映像がまず印象的だった。このシーン結構長いのだが、だんだん遠のいていく駅舎、やがて列車はトンネルに入り、景色は円形の枠のなかに収まりながら消失点のように消えていく。これを観ただけでは、一瞬、旅をテーマにした作品かなと、そのときは思ったのだが、これが、のちに突然トンネルから抜け出すシーンがインサートされ、ある人物の心のうちをシンボライズした映像だということがわかる。かなり映像的には凝った作品だ。

主人公のカメラマンは財布を拾って届けることで、ある女性と知り合うことになる(簡単に書くとこういうことなのだが、この間いろいろ細かなエピソードがあり、相当ふたりの出会いのシーンには気を配っており好感が持てた)。女性には引き篭もりの弟がいて、彼女たちはアパートからの立ち退きを迫られていた。カメラマンは自分の住む広大な廃墟のような館に彼女たちを迎え入れる。そして、引き篭もりの弟を立ち直らせるために、外部のさまざまな世界を撮影して、プロジェクターで壁に映すのだった。

タイトルの「シップ・イン・ア・ルーム」とは、弟の部屋に置かれた船の模型を指している。これはそのまま弟が置かれている状況を示す。大海に乗り出さない船。それは本来の目的を失ったものの象徴で、そのまま弟が置かれている状況でもある。そして、最終的にはこの部屋に置かれた船は、港から出港する船の映像に重なり合い、重要な伏線となっていく。登場人物たちのセリフは少なく、音楽もほとんど入らない。かなり静謐な作品なのだが、映像的な仕掛けはそこここに張り巡らされている。ドキュメンタリー出身の監督なのだが、絵づくりはとても美しく、ことに街の情景などのインサートショットは印象的だ。ただ、ちょっとコミカルなシーンはあるものの、物語的にはやや物足りなさも感じる。しかし要所を締める映像的な企みは気に入った。自分としては悪くない作品だと思う。
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