「悪に対するのは正義ではない」
以下内容に深く触れるので本作をご覧になってからお読みください。
チェーン店だらけになり、市民はそこでしか食べなくなってしまう。
地域の商店街は次々と潰れ、そこには巨大資本のタワーが建つ。
チェーン店に毒された市民はその食べ物のことばかり考え、他は何も受け付けない。
今作は現在の日本の縮図だ。
ブラックパンダラーメンを食べた者はまた食べずにいられなくなる。
チェーン店は爆発的に増え、CMもブラックパンダラーメンばかり。
片やカンフー少女ランは肉まん屋を潰されそうになっている程度で、それにさえ目をつぶれば大きな問題は無いように思える。
作品の構造上、ブラックパンダラーメンが悪でカンフー少女の流派「ぷにぷに拳」が正義として描かれる。
だか終盤これが覆る。
ブラックパンダラーメンが悪なら、それを潰そうとするランも悪に堕ちてしまうのだ。
悪に対する反悪。
悪を倒すのも悪である。
しんちゃんだけがその逆説に敏感だ。
ブラックパンダラーメンのことしか考えられなくするドン・パンパンと、痴呆化させることで暴動を鎮めるラン。
それに対ししんちゃんは歌とダンスで対抗する。
現代日本はグローバル化の波に飲まれるしかない。
多くの人が安くて良い品のチェーン店が無ければ生きていけない。
そしてラジカセではなくタブレットで音楽を聴く。
もう誰もしんちゃんのように悪にも反悪にも(もちろん正義にも反正義にも)抗うことができない。
その中で歌とダンスだけが世界を一つにできるとする本作は慧眼だ。
歌い踊ることで世界の感触を体感しよう。