木葉

港町の木葉のレビュー・感想・評価

港町(2018年製作の映画)
4.1
これはとても深い。観察ドキュメンタリーなのに、奇跡的な美しい映画。
なんてない田舎町の日常を観察した映画なのに、心に深い余韻が残る。
モノクロームだからこそ、港町の寂しさ、そこに生きる人々の悲哀、慈愛が丹念に映し出される。
監督のカメラは何かに導かれたように、耳の遠い漁師のワイちゃん、小さい頃親に捨てられたクミちゃんの表情、言葉をカメラに収め続ける。
老人二人の対照的な姿は面白い。
クミちゃんは、過去の出来事によるトラウマから心を病んでいて、でも人懐っこく、時々発する言葉には長年溜めてきたり耐えてきたことを暗示させ、この町と人の闇が見えてくる。
ワイちゃんは寡黙に魚を取り続けるが、時々何かを思い出したように発する言葉が可愛い。
町は老人ばかりになり、猫の方が多く、空き家も多い。
漁師の仕事や、魚屋で生計を立ててる人たちも、みな歳を食っている。
昔は良かったなんて言う人たちがいて、みな孤独だからこそ、人との関わりを求める。
映画を観た後、置き去りにされた町、時間が止まった町、なんてことを考えたりもした。過疎化が進み、こういう町が増え田舎から人がいなくなるんじゃないかと危惧したりもした。
でもそれは違う気もした、私たち人間の方が勝手に住む場所を変えて、便利な都市に移動し、効率よく忙しく生活していくなかで、何か大事なものを置き忘れてしまったようだ。
それは人と人との会話であったり、ゆっくりした時間の流れであったり、美しいものを美しいと思う心であったり、当たり前のことに当たり前に感謝することであったり。
岡山の牛窓、これはどこにでもありそうだが、どこでもない、魅力的な町だ。
寂れた町、波の音、夕焼け、そこに生きる人々、猫たち、クミちゃんとワイちゃん、いとおしく、全てが深く印象的で奇跡的な映画であった。
木葉

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