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暁に祈れのjonajonaのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
4.5

タイ。ドラック中毒の荒くれボクサーが1匹荒くれすぎて刑務所に送られる。
異邦人の彼の白すぎる肌は明らかに浮いている。汚らしい野外便所。隠れて吸うハッパ。水場はもはや合戦状態でキツケに入れたパンチでより悪辣な房に入れられる。

てってれー、
刑務所のランクが1UPしました⭐︎

歯がキラキラした全身全頭イレズミ男達がニヤニヤと笑う。あっちは得意か?生涯聞かれたくない質問ベスト3に入るレベル。謎のpush-up儀礼。夜中に始まる地獄のような見世物。一番遠い逃げ場は房の壁沿い。逃げたところで手が届く。
平然と人が死ぬ。今日も誰かが誰かを殺すために牢屋の中を蠢いてる。それを咎めるには罪人の数が多すぎる。

一縷の望みはヤケクソになって投げ出したはずの、ムエタイ。
刑務所内のムエタイチームに縋り付くように滑り込み、なんとかして試合に勝とうともがく彼の姿は常にギリギリだ。背水の陣、正念場、ここから先は行き止まり、色んな言葉を体現して彼は切羽詰まって生き残れる場所を探している。

ここでようやく人と人との会話らしきものが生まれてくる。内容は凶暴で話し手の口ぶりも過去の栄光を話してるような狂気じみたものは残っているが、そこまでにまともに主人公が会話をしていなかったことに気付かされる。
彼らは皆んな自分を立ち直らせたい気持ちを同じくしていた。
互いの過去の罪状を話し合う食堂のシーンは大した演出もないのに強烈な安堵の印象を与える。ようやく主人公と周囲の人々の当たり前の笑顔が見えてくる。

縋った売り子のニューハーフといざこざがあってまたヤケを起こしてジムを後にする。思い直して謝る。謝って済むと思ってるのかと掴み合いになる。
しかしこのやり取りにはもう前半部のギリギリとした緊迫感はない。命の取り合いではなくて感情のぶつけ合いのなんと健全たることか。
そのやり取りには信頼と相手への期待が隠れている。もう逃げない、ここで戦わせてくれ。誠意が伝わるというごく自然に見えるコミュニケーションがこれほど切実に見えてくるのは地獄のような底辺が真近に控えてるからだろうか。

入所以前からの暴飲暴食で壊した体を引きずりながら、彼は仲間に讃えられ最後のリングに上がる。



刑務所が更生施設だということを
この映画から学びました。
プリズン映画好きなんですが、
いやぁ開き治ってる奴しか
見たことなかったから…笑

ラストのワンシーンが秀逸。
『この物語は事実に基づく』ってモノローグで語ることは簡単だけど、物語自体と結実した構成になってるのは、これと『アメリカンアニマルズ』くらいしか観たことない(極論)
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