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ルームロンダリングのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ルームロンダリング(2018年製作の映画)
3.9
【隠し味】

そんなに期待はしていなかった。ただ、仕事が終わった時間と劇場の上映スケジュールで検索した結果でヒットした数本のうちの一本、そんな感じだった。
主演の「池田エライザ」も名前は知っていた。
最近流行りの『青春キラキラムービー』にちょこちょこ出ている人でしょ?知識としてはそれくらい。

・・・あれ?可愛い。

イメージしていた「池田エライザ」って、もっと『バッキバキ』の『キラッキラ』のイメージだったんですわ。いわゆる《そうは言ってもモデルですから(✧≖‿ゝ≖)》っていう感じの。
でも、昨日スクリーンで観た彼女は「キラッキラ」とは程遠い、どちらかと言えばアウトサイドに居るタイプの女の子。前髪パッツンでメイクもほぼノーメイク(勿論全くのノーメイクってことはないけど)。
でも表情が可愛い。
演技も暑苦しくなくて自然。
脇を固める俳優陣も個性的だけど実力派を揃えていて、「ほっこりホラー」なんて言いながらも、実は意外としっかりした作品に仕上げていた辺りはよかったと思います。

主人公の「八雲御子」は、いわくつきの物件(いわゆる「事故物件」)に済むことで、その部屋の「過去の履歴」を清算する【ルームロンダリング】を仕事にしていた。
彼女には「霊が見える」という特殊な能力があったが、だからといって死者達の願いを聞き入れ解決に導くなどの特別なことができるような「オカルト女子」というわけでもなかった。彼女は部屋に遺された様々な死者たちの想いに耳を傾け、ただ普通に接していくだけで、どちらかというと振り回されている方だった。しかし、意外とこの設定に無理がなくて、いわゆる「謎解き系」「ミッションクリア系」のような忙しい映画に転がらずに済んだ。多分そっちに舵を切ったらそんなに面白くなかったかもね。

この映画に登場する死者たちはどれも個性的。
会社帰りに突然見ず知らずの男に突然背中から包丁で刺されて死んだOLユウキ。とにかく恨み節が止まらない。でも御子やキミヒコとの触れ合いの仲で色々な思いが交錯し始める。
青森から上京してきてパンクロッカーに憧れるも自分の才能を信じきれず、結果的に「あと一歩」を踏み出す勇気がないまま浴槽で手首を切って自殺したキミヒコ。
偶然御子が見つけたデモテープはキミヒコの最期の未発表曲。これは自信作だった。
だけどそれを人に評価されるのが怖くて堪らなかった。でも死んだ後になって気がつく。

「誰かに批判されるの嫌だからテープを(レコード会社に)送らなかったけど・・・やっぱり気になるじゃん!」

明るい。とにかく明るい(安村ではない)。
でも、その明るさの向こう側には自ら超えてしまった境界線がとてつもなく深く横たわっていて、超えるのは簡単だったはずなのに二度とこっちに戻ることができない絶望的な後悔に襲われていた。その「明るさのウラにある悲しさ」の表情がなんとも言えず、ついつい引き込まれてしまった。このキミヒコを演じた渋川清彦さん、覚えておこう。

そして何故か「カニ」の格好をしているヘンテコな男の子の霊「はぐむ」。
実は御子の小学校の同級生(だった)。
学習発表会の当日に車にはねられて死んでしまって以来、御子とはいつもの公園で「会う」ようになっていた、いわば腐れ縁のような間柄。
どんどん成長していく御子とは違い死んだときのままの姿でいるため、見た目は10歳のままだけど、気持ちは御子と同じ20歳。
だからお酒も飲んでみたかったし、女の人とチューもしてみたかったし。
でも彼は昔から御子を知っているだけに、実は物語の核を動かすくらいの重要人物でもあった。はぐむは御子にとっても唯一本音を吐き出せる「親友」のような相手。

「幽霊よりも人間のほう嘘をつくからが怖い」といって、極端に他者との交流を避ける御子だったが、はぐむとは「幽霊」としてではなく「一人の友達」として接しているように自然だった。そこに「死者」と「生者」の垣根などまるでないように。

ただこのまま起伏もなく、ただ御子と幽霊達の日常を描いただけの作品だとだれてしまうところだが、そこに事件や伏線をいくつか散りばめたことで、結果的に物語りに緩急が生まれ、御子の感情が動き出す様も分かりやすく映し出される。

作品全体のタッチがまるで「パステルカラー」のような優しい映像であるからこそ、生から死へ境界を越えていったものたちのリアルで切ない思いが時折胸を締め付ける。それはまるで絶品料理の味を左右する絶妙な隠し味のように。
やっぱり、いくら綺麗事言ったって死んでしまったらそこでお仕舞いなんだよ。そこからはもう二度とこっちに戻ってくることは出来ない。
だからこそ「生きてる」ことを実感すべきなんだと思う。





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「・・・車、・・・車」
そう呟きながら必死に地面に這いつくばって何かを探している中年の男性。
偶然横を通りかかった御子は線路脇の看板の横に置かれていた1個の錆びたミニカーを見つける。
(もしかして・・・)
そのミニカーをそっと男性の前に差し出す。
動きが止まる男性。
そしてそのミニカーを手にとって
「これだ・・・・・そこにあったのか・・・20年間、ずっと下ばかり探していたから・・。」
恐らくそのミニカーは彼が息子にプレゼントしようと思ったものだったのだろう。
そしてそれを息子に渡すことなくここで事故に遭って命を落としたのであろう事がわかった。
見れば頭から血を流している。彼は死してなお息子へのプレゼントを必死に探し続ける父親だったのです・・・。

そして万感の思いを込めて「・・・ありがとう」と御子を見つめる男性。

このエピソードだけでも泣きそうだったんだけど、ラストでこのエピソードの続きが流れた瞬間、ちょっと、いや結構号泣してしまいました。

みんな明日のことなんてわからないよな・・・。
だったら今日を精一杯生きよう。

この作品はファンタジーであり、ハートフルであり、ちょっぴりホラーでもあるのですが、実は意外と真っ当なことを真っ当に言っているストレートで「パンク」な作品だと思いました。

最後に・・・やっぱりエライザ可愛い。
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