不在

欲望の不在のレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
4.0
スウィンギング・ロンドンの真っ只中、カメラマンをしている主人公の男。
ファッションを始め様々なカルチャーが活気づくロンドンで、この男は富や名声、美女からの愛、それら全てを手に入れた。
しかし心から満たされることはなく、自分には自由がないと愚痴をこぼす。
彼が本当に撮りたかったものは、カルチャーやファッションにのぼせた社会などではなく、巷に溢れる貧しい人々だったのだ。
そんな中ある一つの事件がきっかけで、彼の見ている世界は少しずつ歪んでいく。

主人公や彼を取り巻く文化人らが目に見えるものだけを信じる即物的な人間である一方、愛をはじめとする形而上のものにこそ価値を見出すヒッピーたちは、まさに自由の象徴として描かれている。
主人公は最後にそんな彼らの輪に入り、最初は見えなかったはずのボールがいよいよ見えるようになり、遂には自身も消えてしまう。

映画の中盤で主人公は写真を何倍にも拡大して、ある真実に辿り着く。
しかしそれはただの妄想であり、彼は取り憑かれたかのように嘘の真実を追い求めてしまう。
そして映画とは、監督が作り上げた嘘を本物だと思い込む行為と言える。
映像に映った全てのものに意味があると信じ込んでいる我々は、何か意味深なモチーフが画面に出てくるとそればかりにズームしてしまう。
細かいことに気を取られ、作品の価値を見失っているのだ。
アントニオーニは映画のセオリーを全て無視して観客を徹底的に弄ぶ。
これはカメラによるレイプなのだ。

画面に映っていないものを存在しているかのように捉え、作品を拡大解釈する。
まさに今私がしている行為を、アントニオーニは批判しているのだ。
不在

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