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響 -HIBIKI-のmのレビュー・感想・評価

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
4.8
全体的に音楽を多用し過ぎている事、演出が所々甘い事、クライマックスの照明の転調演出が過剰である事(最近だと「累 かさね」もそうだったが何故決定的な瞬間を役者の芝居だけを信じて委ねられないのか)、主人公の幼馴染らしい男の子を演じる役者が他と比べて圧倒的に弱い事等、明確に良くない点は幾つもあった。後述する大きな穴もある。
それでも自分はこの映画がかなり好きだった。


まず響というキャラクターの面白さが良い。
ひたすら真っ直ぐに自分のルールに従い突拍子も無いタイミングで突き抜けた行動を起こす彼女の特性はまさに『映画的』(ある種の無頼漢といった感じのアナーキーさ)。そんな彼女が旧い日本の価値観を文字通り蹴散らしていく様は痛快。
決して上から目線になる事なく良いものは良い・悪いものは悪いとフェアに言い切る事、ただ常軌を逸しているだけではなく普通の女の子らしい部分も描いて人間としての多面性をしっかり見せている事も良い。傲慢な天才ではなく、こうとしか生きられない徹底的に不器用な人間であるのがまた魅力的だった。

そして響を演じる平手友梨奈が完璧に役にハマっている事が、この映画の力強い原動力になっている。この人より巧く演じられる人はいるかもしれないがこの人よりこの役にハマる人はいないと思わせるハマり方で、演じる平手の鋭い眼力の力強さと挙動の素早さが完璧に活きている。極端な個性と荒唐無稽な設定も平手の存在感で説得力が出ている。
初演技らしい硬さもあるにはあるがそれもまた役の個性に合っていて良い。何より平手の映画女優としての素質と魅力はかなりのもので、今後も是非映画に出演し続けてほしい。


世間のルールから逸脱した並外れた行動力を待つ主人公が突発的にヤバい行動(主に暴力)を起こす瞬間と結果を1カットで見せる演出が要所要所で野心的に織り込まれていて、月川監督はキメるべき所でしっかりキメている。
この辺りはどことなく黒沢清っぽさもあり、その演出とキャラクター性が合わさって響という人間が黒沢清ワールドの住人のようにも見えたりする(たぶん平手さんと黒沢清映画の相性は良い)。


響VS○○という感じの平手と各役者が順々に当たっていくバトル形式になってから映画は俄然面白くなる(彼らがとても狭い世界の関係で繋がってしまっている事は、漫画設定の御愛嬌という事で)。
対戦相手となる脇役陣が充実していて、本心をなかなか言わないがその揺れが表情に現れるアヤカ・ウィルソン、本心を言わないがその心や積み重ねてきたものが表情や身体の動きに滲み出る小栗旬が中でも印象的。
このバトルのトップバッターを飾るのがまさかの「カランコエの花」の笠松将で、「ぼくらのさいご」の頃は全く冴えなかったのにいつのまにかここまで来たのか・・と妙な感慨を抱く。
曲者ばかりの助演陣の中で、北川景子の演技というかキャラ作りはストレートだからこそ良かったのかもしれない、とも思う。




ただ天才を讃美するだけの映画ならつまらないが、これは天才ではない人達の『ものづくり』の話でもある(小栗旬関係の描写をしっかり重くしているのが効いている)。
自分より優れた才能を目の当たりにして打ちひしがれても、やりたいならやるしかないんだよ、だってまだ死んでも良いくらい満足できてないんだから。あなたもそうでしょ?
厳しくも熱いエールでもあり、そういう所が心底好きだった。



書くのを忘れそうになっていたが先述の大きな穴について。
主人公の両親の不在も気になったが(それを描くと色々面倒になるというのも分かる)、一番大きな穴は主人公の書く小説が具体的にどういう文章でどういう物語なのかが描かれないという事だと思う(マクガフィンって事?)。
その代わりに響の小説の良さは登場人物達のリアクションでのみ描写される。最初に小説を読む北川景子の反応は心許無くて正直不安だったが、その後に登場する内田慈の感想を告げる芝居がダントツに良くてここで何となく納得させられる(関係無いけど内田さん以外にも黒川芽以や河井青葉といった通好みな女優さん達がちらりと顔を出していて嬉しい)。この点である種のハッタリはなんとか成立している。


この映画の本当の敵は秋○康みたいな人間だと思うので、映画の読後感を増幅させる良い主題歌も『作詞 秋○康』と出るとなんだか歯痒く思う。平手さんが秋○の元をとっとと離れて黒沢清ワールドを無表情で闊歩する日を楽しみに待っている。
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