MasaichiYaguchi

猫は抱くもののMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

猫は抱くもの(2017年製作の映画)
3.2
大山淳子の同名小説を犬童一心監督が沢尻エリカさんと吉沢亮さんのW主演で映画化した本作は、実写、舞台劇、更にアニメまで交えたハイブリッドでチャレンジングなものになっている。
ヒロインの大石沙織は元アイドルだが、今では〝都落ち〟して地方スーパーのレジ係をしている。
自分が思い描いた夢からどんどん外れていっている事を自覚し、諦念と共に過ごしているアラサーの彼女を癒すのは、習慣となっている妄想と彼女を慕うロシアンブルーの猫・良男。
この作品は、人生の袋小路に入り込んだ彼女が或る出会いから自分と向き合い、そして自分が歩む道を見出すまでを〝大人のファンタジー〟として描いていく。
〝大人のファンタジー〟として本作の大半を構成するのが舞台劇調のシークエンスの数々。
そこでは良男をはじめとした猫たちはコミカルに擬人化されて登場して人間たちと絡み、猫目線でこれらの人物を浮き彫りにする。
沙織も飼い猫の良男も人生の迷子になっているように見える。
この一人と一匹とに対を成すように、もう一組が登場して関わり、夫々影響し合って変わっていく。
人生のどん詰まりや停滞、ある意味〝人生の道草〟を描いているこの映画は、普通ならグレーで重いトーンになりがちなのを、猫を擬人化したり、カラフルでポップな書割を使って寓話劇として描いてみせる。
主演の沢尻エリカさんは、アイドルグループの歌手と女優との違いはあるものの、恰も当て書きされたようにヒロイン・沙織にオーバーラップする。
そして、本作のキーマンである売れない画家、「ゴッホ」こと後藤保を演じた「銀杏BOYZ」の峯田和伸さんが飄々としながらも独特の雰囲気を出して映画に彩りを与えている。
人によって好き嫌いが出る作品かもしれないが、私には人生に躓いた時に寄り添う〝大人の寓話劇〟のように感じられた。