Inagaquilala

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

4.1
ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の前作「ボーダーライン」(2015年)の続編。そもそも、前作の原題は「Sicario」で、スペイン語で「殺し屋」や「ヒットマン」を表す言葉。「ボーダーライン」という、妙にしっくりする邦題が付けられてしまったため、やや作品に対する誤解も生まれてしまうのだが、この続編の英題も「Sicario: Day of the Soldado」で、「Soldado」は兵士という意味のスペイン語。「ボーダーライン」という情緒的なタイトルではわからなかったが、この前作と続編は、明らかに主役は、ベニチオ・デル・トロが演じる元検察官の「Sicario」、アレハンドロを指すことがわかる。そのためか、前作で主人公的な役割を担っていたエイミー・アダムス演じるFBI捜査官のケイト・メイサーは、この作品では登場しない。

監督は、ドゥニ・ヴィルヌーブからステファノ・ソリッマに変わっている。ステファノ・ソリッマはイタリアの監督で、「暗黒街」(2015年)という政治と闇社会の黒い関係を描いた作品は、なかなか観応えがあった。注目されたイタリアの監督を、すぐに起用して作品をつくらせるのが、いまのハリウッドの懐の深さであり、感度の敏感なところでもある。ソリッマ監督は、明らかにヴィルヌーブ監督より、このシリーズに合っているような気がする。

ただ、監督は変わっているが、脚本は前作と同じ、テイラー・シェリダンだ。つい先ごろ、自身が初監督した作品「ウインド・リバー」が日本でも公開されたばかりだが、Netflixのオリジナル作品ながらアカデミー賞の作品賞ほか4部門にノミネートされた「最後の追跡」(2016年)でも脚本を担当しており、いま全米でいちばんその実力を買われている脚本家だ。

なので、いわばこの「ボーダーライン」のシリーズは、テイラー・シェリダンの作品であるとも言えるのだ。実際、次回作を匂わせる場面も登場し、まだまだこれで終わらないぞという予感は満ち満ちている。麻薬カルテルを題材にはしているが、物語の主軸はそこにはなく、作戦を指示する政府の思惑と、感情を重んじる個人の闘いという構図で描かれている。テイラー・シェリダンが描くのは、つねに国家の辺境で生きる人々であり、そこでは共同体と個人の相克がいつでもテーマとなっている。ある意味での人間ドラマでもあるのだ。とにかく、テイラー・シェリダンはいまいちばん注目を集めているアメリカの脚本家だ。
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