塔の上のカバンツェル

ヘル・フロント 地獄の最前線の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

3.6
英国作で同じく第一次世界大戦の塹壕戦を描いたダニエル・クレイグら盟友揃いの「ザ・トレンチ」に似た映画かなと。

「ザ・トレンチ」はかのソンム攻勢の前日の英国兵たちの塹壕での営みを淡々と描いている作品だったけど、今作も塹壕下の兵士たちの塹壕を掘り、寝床を整備し、食事を採り、武器を点検し、戦闘に備える、そんなひとときの"戦闘"以外の兵士たちのルーティンワークの大部分を占める営みをひたすら積み重ねていく映画だった。

1916年のソンム攻勢は100万人以上を犠牲とした殺戮の様相を呈したわけですが、「ザ・トレンチ」のラストでは兵士たちが機関銃に次々と薙ぎ倒されて終幕となる。

今作でも1918年のドイツ最後の大攻勢ミヒャエル攻勢によって蹂躙された塹壕を映して幕切れとなり、英国人にとっての第一次大戦への無常観をまたもや知れる一作でした。

「ザ・トレンチ」はベン・ウィショー、キリアンマーフィーもさらっと出てるので旬な英国俳優推しな人は合わせておススメです〜

【2024/06 追記】

改めて見返してみると地味ながら胆力のある映画だなぁ。

邦題はB級タイトルを与えられているけど、原題の「ジャーニーズ・エンド」って、おそらく”ジョニーよ、銃を取れ”(映画「ジョニーは戦場に行った」の元ネタ)を文字っているんではなかろか。

映画館で観た際には派手さがないために印象に残らなかったけど、終盤で一瞬画面に映る袖に”BG”と刺繍された担架兵などの細かい描写に見所を見出せる映画だった。
敵兵の強襲任務に選ばれる面々の表情や対壕から兵士達を送り出す際の何か儀式めいてすらある暖かい言葉とか、死が隣接する恐怖を士官たちと一兵卒の目線から描く手際の意外性はないけど、丁寧に手堅く描写する点は本作の美点だと思う。

最も魅力的な役所である”おじさん”ことポールベタニーや、スティブーブグレアムにトビー・ジョーンズと名優で脇を固めた塹壕と士官の待避所での人間模様も魅力的。
特にトビージョーンズ演じる、全てを知っている士官付きの料理人というキャラクターは他作品ではあまり描写されない造形だったり、なかなか味わい深い映画だった。