ロックウェルアイズ

万引き家族のロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.5
レビュー600本目。

下町のビル群の中にポツンと残るボロボロ平屋に住む一つの“家族”。
血の繋がらない彼らは足りない生活費を万引きで賄い、それぞれが秘密を抱えながらも仲良く暮らしていた。
そんなある日、近所の団地の廊下でうずくまっている女の子を見つけ、家に連れてきてしまう。
はじめはすぐに親元へ返すつもりだったが……

あまりにも有名な是枝監督のパルムドール。
ようやく観れた。

かなりしんどい。
だけどこれが観たかった。
世間から見れば、万引き、誘拐、殺人、と子供を利用した凶悪犯罪者。
しかし、いつだって我々が見ることのできるのはほんの表面部分だけでしかない。
この映画を観た人がみんな感じたであろう、家族を超えたこの偽装家族の温かみや絆など、側から見れば知る由もない。
普段ニュースを見ていて、どんな凶悪な犯罪が起きようが、どんな悲惨な事故が起きようが、それをそのまま受け取って自分の中で感情的に判断することが私には出来ない。
「可哀想にねー」「なんて酷いことを!」
どこまでも他人事。同情したつもり?
その真相、その痛み、当事者以外に分かるわけがない。
私は、ニュースを見てすぐに思ったまま感想を言えるようなあなたたちの方がよっぽど恐ろしいよ。

しかし、実際目の前に現れたらどうだろうか。
目に見えているのに誰も手を差し伸ばさない。
表面しか見えていない世間は好奇の目で見てくるのに、近くにいるものは目を背けようとする。
その点が非常に上手く描かれていたと思う。
信代の職場に子供を連れて遊びにきた元従業員と思しき女。
それを風俗だの整形だのと噂する現従業員たち。そこには信代もいる。
つまり、この万引き家族も当事者であり世間なのである。
ニュースを見る家族とニュースになってしまった家族。
握った弱みをだしにクビを代わってもらう女と、万引きに気付きながらも妹には教えるなと忠告しお菓子を渡す駄菓子屋のおっちゃん。
それは対立構造でありながら、いつでも簡単にひっくり返るし、誰もがどちらの面も持っている。
私だって、偉そうに達観しておきながら、目の前にそういった問題が起きれば、自然と目を背けてしまうと思う。
無関心こそが最大の罪であり、最大の解決策なのかもしれない。

邦画の良いところがギュッと詰まっていた。
このような重厚さは日本映画や韓国映画など、アジアの映画でこそ出る魅力だと思うので、この映画がパルムドールを撮ったことは日本人として、そしてアジア人としても嬉しい。
韓国映画にも雰囲気が似ていて、翌年のパルムドールのパラサイトとセットで観ても面白いかもしれない。

素敵なシーンがたくさんある、宝石、いや薄汚れた宝石の原石のような映画だ。
ー信代がキスした直後に掴んだそうめんの量が明らかに多いシーンが好き。
ー膝枕していた客の涙で亜紀の太ももが濡れてそれを客が急いで袖で拭くシーンが好き。
ー祥太とゆりが押入れでビー玉の中に宇宙を見るシーンが好き。

日本最高級の演技派集団による演技も素晴らしかった。
もはやこれは演技ではない。
特に樹木希林さんがとか言いたくなるところだが、誰かが特に秀でていたというよりもどの役者も命がこもっていた名演である。
そしてそのリアルさを、映像で無理矢理自分事として押し付けてくる監督の力量には参った。

1点だけ。
なんで治と祥太が事件後に1対1で会えてしかも家にまで泊まれたのかは疑問だけど、非常によく作り込まれた映画だった。
ところで、ラストシーンでゆりは柵の向こうに何を見たのだろうか。
なんとも解釈の分かれそうなあのラストシーンはかなりズルい。
希望と取るか絶望と取るか、これもまた我々の想像力に委ねられている。