改名した三島こねこ

万引き家族の改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.8
<概説>

社会のどん底にいる五人家族が、荒んだ家庭にいた少女を誘拐した。彼等は自分達で選びとった関係性を、ゆるやかに築き上げていく。

<感想>

かなり家族側に寄った感想なのでまずは一言。万引きというのは犯罪行為です。それは間違いない。

『万引き家族』という題名ではありますが、ノワール系の作品ではないですね。むしろかなり文学的・社会的な作品でした。これをただの悪人物語と捉えるのは難しいです。

本作は社会側の欺瞞が強く描写されています。労災などの社会保障の手からも漏れ出した家族。家庭内暴力という面倒な事実からは目を逸らし、袋叩きにしやすい貧困層のみを吊し上げる社会。これのどちらが悪人なのでしょうか。

それが特に露出したのは最後の役人の尋問の一幕ですね。彼等はなにも見ていない。表面的に攫える事実だけでどうしようもなかった私生活の尊厳的な側面にまでズケズケと踏み込み、"社会的正義"の美旗の元に自分の価値観だけで他者を踏みにじる。それのどこに正義がありますか。

一方作中家族が発言したことはなにも矛盾してないです。腹立たしいことがあっても手をあげたりはしない。自分で選び取ったからこそ、自分からは(積極的な意味として)捨て去ることをしない。そこから離れるのは社会的な偽善か、家族の良心によってのみ。あるいは死別か。それは金銭がない人々が獲得できる数少ない幸福であり、尊厳です。

「自分が子供を産めないから誘拐したの?」

であるからこそ、この最後の腹立たしくも開示された事実に悲痛を覚えます。貧者は家族を持ってはならないのか。貧者は幸福を得てはならないのか。普通だから偽善心を満たすために貧者から巻き上げていいのか。
少なくともあの役人は彼等の子供が本当の子供でも、社会的正義とやらの為に夫婦から子供を取り立てたでしょうね。愚鈍な働き者は殺すしかない。

作品というものが人生を変革させうる可能性を秘めているなら、本作はなるほどパルム・ドールを受賞するに相応しい作品でした。息苦しくて仕方ないのに、ほんのりと優しい。いい作品です。

しかしリリー・フランキーは陰陽兼ね備えた役が本当にうまいですね。『凶悪』の先生とは善悪どちらに比重があるかというのは違いますが、どちらの笑顔も魅力的でした。