月うさぎ

アガサ・クリスティー ねじれた家の月うさぎのレビュー・感想・評価

2.6
不思議な映画。本当に不思議。ストーリーは同じなのに全く別な物語になっています。
なぜ、グレン・クローズが主演なのか?
堂々と真ん中取ってますよね?まずこれが一番の謎。
原作では一家の血縁ですらない、見ようによっては居候のおばさん。一応容疑者。
しかもこれってネタバレですらあるんですよ。
本当の主人公はソフィアの元カレ、チャールズ・ヘイワード。原作では婚約者で外交官なのですが、これを「探偵」設定にしてしまったから、あら大変。
元々はチャールズは物語の語り手であって、読者をミスリードするお役目ですよね。
ところがこの映画では「ワトソン」が探偵なものだから、推理もできなければ犯人も分からない、なんの役にも立たない無能な探偵になってしまっています。
家族の描き方にも悪意があって「ねじれた家族」を強調するためか、必要以上に悪い人間にされてますね。
アリスタイドの後妻は単にウェイトレスだったはずなのに、色仕掛けで爺さんを騙した踊り子にされてるし、不倫も本当にしてる設定にされてます。
「ねじれた家」というのは、マザーグースの歌から取られたタイトルで、絡み合っている蔓草のように、依存しあっている家族を表現しています。この家族は憎み合っているのでは無く、殺された一家の主人アリスタイドは息子や孫娘ソフィアから愛されていました。後妻も映画のような妖艶な女ではありません。受益者に「動機がない」事がこの事件の謎なはずなんですがね…

ちなみに「取り替えっ子(チェンジリング)」とは、親に似ず醜い容姿をしている子どもや障がい者に対して、妖精に本当の(美しいはずの)子を連れ去られてしまって替わりに置いて行かれた身代わりの(偽物の)子という意味の呼び名です。自分の子にチェンジリングとあだ名をつける母親なんてあり得ませんが、この物語ではこの設定が肝なのです。
それも映画では伝わりませんね。普通に可愛い女の子が演じているので。

原作では1947年の出来事とはっきり記されている所を監督の意思により1956~1957年に設定を変更された意味もわかりませんでした。
ロックンロールの誕生を映画に取り込みたかった?
それにしてはダサいんですよ。反抗的な少年がロックに傾倒してるとか、そんなのさ〜。しかもあまりロックしてない…。
ビートルズ以前を描きたいって事?
だったらロンドン郊外の田舎の一軒家ではダメでしょ。
自由な雰囲気はこの少年からは全く感じられませんよ。

イギリスっぽさはちゃんとあります。
ならば尚更半端な時代ずらしはしないで、原作の雰囲気を忠実に描くか、斬新に現代にもっと寄せるかすればいいものを。

「これまでのクリスティーの映画作品では見たことがない要素を取り入れることができた」
その通り。こんな半端なクリスティ映画は見たことないです。

そしてエンディング。まさかの展開。

なんでカーチェイス?

そしていきなりTHE ENDの文字が〜!!

ホントにいきなり終わっちゃった。
救いも余韻もないです。

「THE END」がやりたくて1956年設定だったのかもね。
月うさぎ

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