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ゲッベルスと私のTOTのレビュー・感想・評価

ゲッベルスと私(2016年製作の映画)
3.9
「なにも知らなかった、私に罪はない」
「ドイツ国民全体に罪があるなら私にも罪がある」
「神様はいないが悪魔はいる、この世に正義はない」
ゲッベルスの秘書だった103歳の女性が朗々と語り、肯定し、時に口籠る二面性を揺さぶり反証する資料映像。
右傾化とポピュリズム、SNSが加速装置にもなる現代が映る鏡を思わせて強烈な独白と映像の記録が“お前は今どんな顔で見るの”と問いかける。
勧められて党員となり、国営放送局で一部非課税の高給を手にした後、宣伝省に転職し、ゲッベルスの秘書になる。
友人より高給を得て、兵士や高官でなくとも、国の組織の末端にいる自尊心と生活を満たしていただろう。
30代女性が個人として判断したはずの行動が、徐々に“悪の凡庸さ”に近付いていく。
終戦後に拘束され、解放されるまでユダヤ人大量殺戮を“知らなかった”という彼女も、ゲッベルス一家の自殺と反ナチスの若者の死には語気が乱れる。
目先の利益を優先し、“敵”に手をかけずとも眉を潜め、仕方なかったと流されて、見えただろうものに目をつぶる。
語りの明晰さは後付けだからこそなのか。
30代の彼女のキャリアチェンジと供に訪れた人生の岐路。
103年の人生の3年。
もう少し前なら、立ち止まることができたなら、違う道を選んだだろうか。
「ドイツ全体が強制収容所だった」と語る彼女を、いま、他人事とは思えなかった。
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