いののん

獄友のいののんのレビュー・感想・評価

獄友(2018年製作の映画)
4.1
この映画がドキュメンタリー映画として優れているのかどうかなんて、私にはわからない。でも、冤罪という共通点?を持つ同志たちを描くこのドキュメンタリー映画の切り取り方は、アリだと思う。冤罪を明るく描く映画。これって凄いことかもしれない。


「殺人犯」に仕立て上げられ、想像を絶するほどの年月、刑務所に押し込められ、その苦しみはいかほどのものなのか。犯罪者という汚名を着させられたその家族の苦悩はいかほどのものか。通常のドキュメンタリーだったら、その苦しみ悲しみ憤怒に思い切り焦点を当てていくのだと思う。


しかし、この映画はそれとは違うところに焦点をあてる。獄友たちは明るく、ユーモアに満ち、獄中生活を時には笑って語り合い、そして何より、実に前向きなのだ。かけがえのない日常生活を明るく前を向いて過ごしていこうとする思い。獄友だからこそ言葉にしなくてもわかり合える思い。そして、まだ、冤罪が晴れずに闘っている仲間を救いたいという思い。そのために、気前よく自らを差し出そうとする姿。


明るいトーンの映画だからこそ、そのなかに隠されている様々な感情を、観客は敏感に察知しようとする。正義をふりかざさない映画、押しつけがましくない映画だからこそ、自分の方から歩み寄り、握手しようと手を差し出し、わかりたいと思う。


観客は、この映画を笑いながら観て、そして同時に励まされる。明るさのなかに佇んでいる不屈の精神を受け取る。「やっていない」と叫び続けることの、果てしない強さを、希望を見失わないでいられる強さを、学ぶ。人からもらった善意は、ちゃんと返していきたいという気持ちを抱く。


冤罪は決して許されない。
その思いを、より一層、強くする。


そして観客は、獄友たちから受け取ったものを、しっかり手の中に握りしめて、掌からこぼれ落ちないように、もう一度ぎゅっと握りしめ、それを大事に持って家に帰るのだ。





*この映画を観ながら、奥西勝さんのことを考えていました。奥西勝さんが生きて戻ってこられなかったことが無念です。私は、ドキュメンタリー番組を通して事件のことを知り、再審請求が通り、冤罪が晴らされることを願っていましたが、それは果たされないまま、真実が明らかにされないまま、獄中で亡くなりました。布川事件の桜井さんが、映画のなかで繰り返し言います。全国にはまだたくさん同じように冤罪で苦しんでいる人たちがいる、と。
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