genarowlands

ミレニアム・マンボのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ミレニアム・マンボ(2001年製作の映画)
3.9
久しぶりのホウ・シャオシェン。現代の若者の空虚を幻想的な映像でいて、リアルに生々しく描いた作品でした。
登場人物がヤク中モラハラDV男とアル中依存症彼女とお店の客のヤクザだということを忘れ、美しい光と音の映像に酔いました。

ホウ・シャオシェン監督が現代を撮ると、地獄のような荒んだ世界にも温かみのある光を照らします。誰もジャッジせず、抜け出せない地獄と幻想の間で酩酊しているビッキー(スー・チー)の目線なのに、リアルでした。足取り重く、重力を感じるというのか、地を這うように生きざるを得ないビッキーがどこかで自分が解放されるのを待つ、不思議と希望を感じられる作品でした。人間が本来持っている善やより良く生きようとする力を感じました。

物語は、ミレニアムに沸いた年、ビッキーはハオから逃れられない日々を送り、ホステスとして働く店で客として会ったヤクザのガオに惹かれていくのですが、それを10年前の出来事であると言い、自分を「彼女」と三人称で語ります。

未来から自分を客観視するように語るので、ビッキーの前を見て進もうとする力は残っているのだと安心しました。現実逃避で離人的とも言えますが、ビッキーは薬物は拒絶しているので、まともに生きたいと思う力がまだ潜在的に残っていると思います。

ヤクザのガオはおそらくゲイで、ビッキーを性的対象とは見ておらず、ヤクザの世界に巻き込まないよう、ふつうの世界にビッキーを戻そうとしていたのだと思います。

ビッキー演じるスー・チーはとても魅力的です。ガオは決してビッキーを食い物にせず、生活の基本を教え、依存症なのをやんわり正そうとします。

ふつうの世界に戻れなくなったビッキーが見る世界は、今ここしか焦点が当たっていなく、近景と遠景がボケていて、酩酊状態です。それは温かい光で守られているかのようでした。

語られない背景は家族のこと。クラブに出入りしてハオに卒業試験を邪魔され高校卒業できず、それでも家族との関係は語られません。家族に問題があるのでしょう。家族以外の他者や嗜好品に依存せざるを得ない若者の姿でありました。

音楽と映像が素晴らしく、音楽は実際にクラブでDJをしていた人が担当。

温かみのある光に包まれ、目覚めるのがいやになります。

日本人と台湾人の両親をもつ双子が北海道の夕張出身で、ビッキーは冬の夕張でふつうの女の子のように雪をみてはしゃぎます。夢のような世界から離れ、台湾の人にとっては夢のような雪国ですが、厳しい環境がビッキーを冷やし目覚めさせていくのだと思いました。

ハオを演じたのは一般人です。映画って怖いです。そうにしか見えない人物でしたが、実際にそういう経歴だったと付録の監督の話にありました。映画は人物を見透かすんですね。

郷愁ある昔の作品しか観ていないので、ホウ・シャオシェンの現代を舞台にした作品、他にも観てみたくなりました。
genarowlands

genarowlands