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グスコーブドリの伝記のmitakosamaのレビュー・感想・評価

グスコーブドリの伝記(2012年製作の映画)
4.0
賢治×ますむらひろし×杉井ギザブローという銀河鉄道の夜の布陣だが、グループタックが倒産してしまった為に手塚プロの制作となった。

イーハトーブを舞台にしたファンタジー。森に住む猫のグスコー親子だが、寒波により飢饉となり幸せだった日々が終わる。父・母は失踪。妹ネリは人買いに攫われてしまう。
残されたブドリは養蚕工場で働くがこれも閉鎖。赤ひげの元で農業に従事し農学を学ぶ。
その後、町に行き大学の教授からの紹介で火山局に就職。また襲って来た寒波に対抗すべく、ブドリは命を賭して火山を爆発させ飢饉を回避する。

まずブドリは銀河鉄道の夜のジョバンニそのまんまだが(笑)キャラクターのポーカーフェイスな所も同じということがポイントだ。銀鉄のジョバンニは死に対して、今作のブドリも貧困と家族の離散という悲劇に対して悲観的な表情を見せない。淡々としているし、声優の小栗旬も抑揚が無いので感情が浅い印象だ。

よく言えばこの無表情さが悲壮感が無くてとても見やすい。

ただ唯一気になったことがあって、火山局に勤めて初めて見る実験の成功にブドリが涙をするシーンだ。
冷害による悲劇で苦労し勉学に勤め頑張って来たブドリが、人間の力で自然災害を乗り越える様を目撃したのだ。人知が自然の驚異を乗り越えることが出来ることを目の当たりにしたのだ。それは嬉しかろう。

だが、やはり苦労して来た描写が辛そうな顔をしていなかっただけに、その喜びが薄く感じてしまう。
やはりあの涙のシーンはちょい違和感があったんだよな。

一方で、ラストは実に素晴らしい。妹を攫った男が現れ、イーハトーブを救うためにブドリを火山に導く。
直接は説明していないが、明らかにブドリには死が伴うのが伝わる。
これはブドリのポーカーフェイスが導いた、達観さから来る演出だ。

ファンタジー溢れる世界観にスチームパンクなガジェット。ますむらキャラも活き活きしているしビジュアルも文句無し、赤ひげが完全にヒデヨシなのもポイントだ。
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