天豆てんまめ

カツベン!の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

カツベン!(2019年製作の映画)
3.8
周防監督の作品に魅せられなくなったのは、いつからだろう。

この作品も見所も見せ場も沢山ある。
何より成田凌の活弁の素晴らしさ。
飄飄とした物腰と切れ味ある声質と転換のうまさに驚いた。今までクセのある役ばかりであまり好みでなかったが本作で好きになった。

黒島結菜の可憐な美しさ。髷が似合う!
幼馴染みの2人の恋展開も活弁コラボもいい。

ややテンポが遅い前半の眠気を覚ましてくれたのは永瀬正敏の色艶ある活弁。後半の飲んだくれからの真言もいい。高良健吾の色男活弁士ぶりもいいが声が弱い。

いつもの音尾琢真の子悪党暴れっぷりやマダム的な色気を醸すようになった井上真央も、影のドン的な小日向文世も、まんま銭形警部っぷりの竹野内豊のノリノリアクションもいい。脇で一番良かったのは映写技師役の浜本祐介かな。彼と成田凌でクライマックスを飾るニューシネマパラダイス繋ぎ活弁もやはり楽しい。

しかしやっぱり周防組代名詞の竹中直人と渡辺えりの安心感、でももっと弾けてほしかった。いつもの徳井優や田口浩正の掛け合いもニヤニヤして観てしまう。

東映太秦撮影所を中心にした映画創成期の美術セットも世界観に誘ってくれる。

奥田民生のカツベン節もマッチしていて、全編、映画愛に満ちた作品であることは間違いない。

しかーし!何なんだろう。この何とも言えない違和感と後味。

久しぶりに周防監督が送り出す喜劇ドラマにしては何かが足りない。この気持ちはなんなんだ。

その違和感の正体を探ってみた。

あの、私を虜にしてやまなかった「ファンシイダンス」や「しこふんじゃった。」や「Shall Weダンス?」にあってこの作品には感じ切れなかったもの。。

周防初期映画特有の、心の奥底をキューンとさせるようなノスタルジックなロマンティシズム、、人里離れた山中の寺やガランとした土俵、誰もいないボールルームに、ふと感じる寂しさ、切なさ、青春の終焉といった何とも言えない余韻。。

本作はこれらを排したまさしく、活劇、なのであって、ドタバタ要素を詰め込んだスラップスティックコメディであり、かっちりした脚本構成が、どこか肩が凝る窮屈な感じ。あの周防監督の独特の間がいまいち感じられないのは、初めて企画と脚本を、愛弟子助監督の片島章三に任せた影響は大きい。もちろん彼の脚本は素晴らしい。いわゆるドタバタ活劇としては。

でも、でも、私は長年、周防監督ファンで、以前一度だけ新藤兼人賞授賞式に来ていた時、挨拶しようとしてあまりに緊張して何も言えなかった程のファン特有の偏った主観ではあろうが、、

この作品は、周防正行監督の、真骨頂ではない。とあえて言おう。

今まで周防監督作品から感じてきた映画から漂う何か特別なモーメント、、という言葉にしづらい感覚を大切に、私は今後も映画と向き合うと共に、周防監督次回作を楽しみに待とうと思う。