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そらのレストランのdm10foreverのレビュー・感想・評価

そらのレストラン(2019年製作の映画)
3.8
【エネルギーのバトン】

道外の方にとって、北海道ってどういうイメージなんだろう?

「松山千春さんの『大空と大地の中で』のような雄大な自然」
「ひたすらどこまでも広がる広大な牧草地」
「住宅地のすぐ近くをヒグマが散歩してる」
「ペットと言えば『キタキツネ』か『エゾリス』を飼っている」
「極寒の真冬に、家の中でがんがん暖房をつけてTシャツ短パンでアイスを食べてる」
「電気がなければ勉強できませんよ!」「ランプがあります」(by「北の国から」)
「・・・子供が、まだ食べてるでしょうが!!」(また「北の国から」)

・・・こんな感じ?

というのも、僕は生まれも育ちも札幌で、そりゃ東京や大阪に比べればちっさい街だけど、一応北海道の中では「都会側」に住んでるんですが、ぶっちゃけて言うと、そういう「ザ・北海道」っていう雄大で広大な自然には憧れる側なんですよね(笑)。

札幌には海はないし、山は・・・あるけどそれ程高くもない。川はあるけど普通。サケなんて滅多に帰ってこない。
実は皆さんのイメージにある「北海道」は札幌市内には殆どなく、むしろ市外にあったりする。
(ススキノとかニッカおじさんの看板とかは別ね)。

だから、たまに山道を車で走ったりしてキタキツネを見かけたりしたら普通に驚くよ。
だって、札幌市民だってあまり見たことないもん。

この作品に関してはね、恐らく大前提としてそういう「憧れ要素」みたいな部分から始まったんじゃないかな?嫌味とかでもなんでもなく、純粋にね。

あえて札幌や函館のような「街」と切り離して、瀬棚町(せたな町)の大自然の中でのどかで楽しい暮らしを満喫する人々の生活のみをひたすら描いている。
だから、ストーリーも有るには有るけど・・・という感じ。
瀬棚って海も山も畑もあるのか・・・言われて見れば海岸線に沿った場所にあるし、なるほどね・・・同じ北海道にいてもそんな感じよ。
特に、用事でもなければ瀬棚方面なんて滅多に行く事ないもの。

でもいいね。やっぱり。
海があって、山があって・・・不思議なエネルギーに満ちているよ。
俗に言うパワースポットって、何も神社仏閣や不思議な言い伝えのある岩とかばかりじゃなくてね、こういう自然の力が満ち満ちている場所にこそあるんだと思う。
実際、うちの奥さんの実家の近くにも海と山があって、やっぱり凄くエネルギーを感じる。
2階の寝室の窓からは海が見えて、反対側の部屋の窓からは山(有珠山)が見える。それも結構近く。車で10分もかかんないくらいの場所。
特に有珠山は今でも活火山なのでエネルギーはハンパない。
いつも夏休みや正月にお邪魔して「充電」して帰ってくる。

この映画はホントにそんな作品。

都会に住んでいる人がこういう「空気」に憧れてこの作品を見る際に、少なからず自分を重ねてしまうのは岡田将生演じる「神戸ちゃん」なのかな。

都会の暮らしの中で身も心も擦り減らし、ただ「死んでないから生きる」という日々の中で生きる意味が段々と見えなくなっていた神戸。

「何を食べても味がしなくって・・・」

それは勿論新型コロナの症状ということではなく、心の問題としてね。
「生きるために食べる」という当たり前の事すらも感じなくなって来てしまうのかな。
ただ生活のルーティーンの中に「食事」があったという理由だけで、決った時間に口に物を入れているだけとでもいうか・・・。

そして逃げるように瀬棚に移住してきた神戸が就いたのは「生きるために食べる」のではなく「食べるために育てる」という畜産農家だった。
それまで「生きる」ということと「命」が結びついてなかった神戸にとって、自分が育てた羊を食べるという事で、初めて「生きるために食べる」という意味を知り涙する。
命を頂いて今日を生きる。
それは単なる栄養素の摂取という「作業」ではなく、「命」というエネルギーを受け継いでいくという尊い行為。

たぶんね、物語の主人公を「神戸ちゃん」にしちゃうと、よくある「再生物語」になっただろうね。
だとしたら、作品自体も大して印象にも残らなかったかもしれない。

でも、この物語は一応の中心こそ「亘理(大泉洋)」だけど、実はもっと俯瞰で見ていて、今日も明日も生きている「あのコミュニティ」自体が主役だったと思う。
そしてみんなで協力し合いながら「命(エネルギー)のバトン」を受け取って、次に繋いで・・・という作業を繰り返しているのだと思う。

この作品に出て来る食事はどれも「あったかい」。
それは単に「HOT」という意味ではなく、見た目にも、食べる環境的にも「優しさ」を感じるからなんだと思う。作る人の想い、食べる人の想い、両者が一緒に笑いながら囲む食卓。
自然と笑顔がこぼれる食卓こそが最高のレストランなんだと思う。

そこにあんな素晴らしい素材があればいう事無しでしょ。
とりあえず、大谷さんのチーズは食べてみたい(笑)。

・・・あと、マキタスポーツって、絶妙な「いるいる感」がうまいですよね。
あ~、そうそう、確かにいるよね、こういう人!っていう感じ。

毒々しい展開も、ドロドロした人間ドラマも、牛に負けないくらいの繁殖シーンもない、本当に穏やかな作品です。
これが「ザ・北海道」と言い切れるほど全てを表現しているわけではありませんが、北海道の良いところはちょっと感じてもらえるのかな・・・と思います。

ハッキリとした起承転結を求めるような時はお薦めできませんが、ちょっと疲れたときに流すには意外とアリな一本でした。
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