KnightsofOdessa

クリシャのKnightsofOdessaのネタバレレビュー・内容・結末

クリシャ(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

[家族に戻るには、あなた自身の努力が必要だ] 80点

ド傑作。最近のMUBIは有名監督のインディーズ時代を振り返る時期に入ったらしく、ジョゼフィン・デッカーやらジュスティーヌ・トリエなんかの初期短編を持ってきていたんだが、そんな中『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツの長編デビュー作『Krisha』がやって来た。

感謝祭に帰ってきて、親族と久方振りの再会を果たした老女クリシャ。冒頭の車を降りてからの長回しには惚れる。大きなキャリーを転がしながら大股で歩いていき、家を間違えてブチギレ、ショートカットして泥に足を突っ込んでブチギレ、ようやく家に辿り着いても犬のせいで対応に遅れることにもブチギレる。多くの親族がクリシャを歓迎するが、一人だけ彼女の帰還を快く思わない人物がいた。監督が演じる一人息子のトレイである。そして、クリシャ本人も監督の叔母なのだ。

クリシャは早速キッチンに立って、サッカーを観戦する男たちを尻目に、料理の準備を始める。しかし、この辺から映画の雲行きが怪しくなり始める。環境音や生活音が露悪的に描写されるのだ。男たちの歓声、それに負けないよう張り上げる女たちの相談声、それに犬の鳴き声が加わり、我々の不安を煽り続ける。あまりに露悪的なので、逆に高揚感まで出てくる。そして、強烈に七面鳥が食いたくなる。

息子トレイとの関係の修繕をしに来たクリシャであったが、露骨に嫌そうな顔をする息子との関係は冷えたままだ。夢を諦めんな、などと理想論を振りかざすが相手にすらされない。そして、尊大な皮肉屋である妹の旦那(私コイツ大好き)に失踪の理由を訊かれたクリシャは"いい人間になるため"と答えるが、"なんやねんそれ、イマドキの大学生かよ"と一蹴される。ワロタ。しかし、笑っている場合ではなく、酒と薬で情緒を保っているのは昔とは全く変わっていない。今はバレていないだけだった。

そして事件は起こる。クリシャは七面鳥を床にぶち撒けたのだ。取り乱した彼女の後ろではトレイが幼かった日々の動画が流れ続ける。居心地最悪の空間に凍りついた親族たち。秘密裏に呑んでいたワインを妹の旦那のものだと言い訳して、過去からまったく変わっていないことが露呈する。そして、唐突に画面サイズが小さくなり、音楽が消える。文字通り静かで、窮屈な空間に閉じ込められながら、もがき苦しむクリシャそのものだ。妹のロビンに"皆あなたを愛している、あなたからも歩み寄らなくちゃ"と言われ、心では歩み寄る姿勢を見せる。しかし、結局は全てを破壊し尽くして終わる。

どこか暗めながら鮮やかな発色をどこかで観たと思ったら、ジョナス・メカス『As I Was Moving Ahead Occasionally I Saw Brief Glimpses of Beauty』だった。どちらもホームムービーではあるが、メカスが自分の家族の成長記を親密な目線で纏めあげたのに対して、本作品は家族という"繋がらざるを得ない"地獄を描き出している。シュルツも意識してるのかもしれない。
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