ベルベー

ペンギン・ハイウェイのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

部分部分すごく好きなんだけど、どうにも一番芯のところが腑に落ちなくて、乗り切れんまま終わってしまった…という印象。実時間以上に長く感じて、それが結構辛かったかも。

原作を読もうとしたのは高校生の頃だったか…しかし私、原作読破途中で断念してるのです。全部読みきれない自分を恥じたものだけど(じゃあ読めよって話だけど笑)、映画を観て改めてこれは読めないなと思った。ハマりきれない。

その原因をシンプルに言い表せば、「なぜペンギンなのかが分からない」からかな。小難しく世界を表現する作品なんだけど、何故そうなるのか、原因や動機の部分がどうにもしっくりこない。

これが「四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」ならその小難しさ自体に意味があるわけで、それこそ森見登美彦という作家の魅力だと僕は思うわけです。高学歴クズ系男子大学生ならではの屁理屈でこねくり回した主観的な世界をある種自虐的に、これでもかというくらい小難しく語ることに可笑しさがあるのだと。

それに比べると「ペンギン・ハイウェイ」は真面目に小難しい世界を描こうとしていると思うのだけど、いかんせん設定の説得力に欠ける。お姉さんはなぜ人間ではなかったのか。なぜ投げた缶がペンギンになるのか。なぜペンギンなのか。なぜジャバウォックなのか。そこにある意味を見落としてないか、考えることに気疲れするし、そのカロリー消費に見合うだけの必然性や感動を見つけることが出来なかった。ルールが明確でない世界は、そうである世界と比べると魅力が減退する。

これはかの大傑作「千と千尋の神隠し」と比較するとより際立つ。本作は「千と千尋」に似ていると感じる点が多くて。少年少女がひょんなことから、世界の境目を見つけてしまい、異世界に迷い込んでしまう。そしてそこで出会う異性に憧れを抱くけど、別世界の彼(彼女)とは別れなくてはならない運命。「水」が象徴的に描かれる異世界観とかまさに共通していると思う。

でも「ペンギン・ハイウェイ」のソレは中々腑に落ちないのです。「千と千尋」はあんなに不思議な世界を描きながら、フッと落ちてくるのに。その違いは何か。細かい設定一つ一つが、我々の日常に紐付いているかどうかだと思う。

例えば異世界への境目。「千と千尋」ではトンネルだ。日常的に存在し、かつその出口はもしかしてーという可能性を感じさせるモノ。でも「ペンギン」では「海」と称される謎の球体。分かりづらい。

出てくる異世界の生き物も、「千と千尋」は独創的なんだけど、神話に紐付いた造形は不思議な程スッと入ってくるのです。「ペンギン」は文字通りペンギンが出てくるのだけど…可愛らしいマスコットとして市民権を得ているペンギンが、実は日本人にとっては馴染み薄い動物だったと気付いた。勿論、だからこそ街中にペンギンっていうのが異質というお話ではあるんだけど、異質で終わってしまってるというか。

決定的なのは、主人公のキャラメイクでしょう。どちらも10歳なんだよね(アオヤマ君は厳密には9歳ぽいけど)。思春期直前の、子どもならではの感性。大人になった我々にも確かにかつてあったはずの時代。ところが、アオヤマ君の行動原理にはあまり10歳感がない。やたら勿体ぶった喋り方もそうだし、「おっぱい」への興味の持ち方もなんか脚色されてて小学生男子ぽくない。森見登美彦という成人男性が透けて見えるというか…好きな作家だけど、彼の文章表現は成人なりたて男子の自意識を描いてこそな面もあるなと。小学生男子を表現する類のものではない。脚本の上田誠も同様。

脱線するけど、その点「千と千尋」は凄まじい。「車の後部座席で項垂れる少女」という構図だけで、余計な回想シーンや言葉での説明無しに、千尋という10歳の少女のキャラクターを完璧に表現してみせたのだから。宮崎駿という作り手の影が見えてこないし、千尋が絵コンテや脚本上の存在ではなく、実在の人物として浮かび上がってくる。今回「千と千尋」を想起して、改めてその凄さを実感した次第。

閑話休題。まあ比較対象が「千と千尋」では分が悪すぎる。とはいえ、そんな偉大な先人を観てしまってる一観客として、本作にのめり込めなかったことは確かです。

しかし、これが長編初監督の石田祐康監督の手腕は買い。ファンタジーとはいえ前半では動きの少ない作品を、躍動感溢れる演出で魅せた。ペンギンの滑らかな動きもそうだし、「海」の不気味な演出も良し。不思議で何処か寂しくて切ない異世界の描き方も、アニメ好きとしては昔懐かしい感じがして良かった。中盤物凄くダレるので、2時間ちゃんと持たせられたか…というとまだなんだけど、それでも期待の新星と言って過言ではないでしょう。もっとシリアスな作品を任せても面白いと思った。

そうそう、小学生の一夏の冒険を描いた作品って遡れば沢山あると思うんだけど、個人的にはやっぱり「デジモンアドベンチャー」を思い出す。細田守監督はあの作品で出世して。その細田監督が「デジモン」を作る上で参考にしたのがビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」。宮崎駿もこの作品について言及してて興味深い。あの作品に於ける少女にとっての兵士が、デジモンであったり白であったりお姉さんなのかなと。もっかいちゃんと見ようかな…。
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