螢

追想の螢のレビュー・感想・評価

追想(2018年製作の映画)
3.8
苦くて、切なくて、哀しくて、虚しくて、でもどこか優しさもあって…人生の機微をシンプルな枠組みのなかで哀愁ゆたかに表現した、とても余韻の残る作品。

ほろ苦いなんてもんじゃなく、人生の無情を容赦なく突きつけるイアン・マキューアンらしさは失わないままで。

一緒の人生を歩むはずだった二人の辿った対照的な人生には、どうして、と思わずにはいられない。

結婚式を挙げ、ハネムーン初夜を迎えた若い夫婦の行き違いとその後を、結婚前の幸せな映像を挟み込みながら見せていく。

所属階級や育った環境の違い、それぞれの家族が抱える問題、埋めようとしても埋められない溝…。
ボタンのかけ違いは、小さいようで、大きく。
若く未熟な二人がもう少しだけ時間をとって冷静になれてさえいれば、問題を乗り越えて、こんな結末にはならなかったんじゃないか…。でも、やっぱり、あまりに隔たった二人の姿には、早いうちにこうなってむしろよかったのかも…等、様々な思いをめぐらしてしまいます。

これまで私の中でどことなくお転婆でませた役のイメージがあったシアーシャ・ローナンが、そのイメージを一新するように、哀しい予感を体現するように常に憂いと物悲しさの影を滲ませる女性フローレンスを演じきっていたのが、印象的でした。さすが女優。
彼女が着ていた目の覚めるような鮮やかなブルーのワンピースもとても素敵。

つらいけど、観てよかったなあ、としみじみ思えた作品でした。
螢