ちろる

希望の灯りのちろるのレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
3.9
満たされない心。
埋まらない孤独。
彼らは空虚感を噛みしめながら、ひとときの安らぎを求めて静まりかえった夜のスーパーに集まる。
薄暗い中で流れるヨハン・シュトラウスの『美しき青きドナウ』と、ゆっくりと動くフォークリフトの機械音、経験は無いのに何故だかとても懐かしい気持ちにさせられたのはなぜだろう。
過去の悪友から逃げるように堅気の仕事を始めたクリスチャンと、先輩のブルーノのやりとりがとてもあったかい。
無口なクリスチャンにぶっきらぼうな父のように接するブルーノはなくした妻を心に抱えたままギリギリの心で生きている。
まるで無感情のように、淡々と仕事をこなすクリスチャンが心を少し動かされる同僚のマリオンはおそらく暴力を振るう旦那に悩まされ、職場だけが唯一の居場所となっている。
3人がそれぞれを少しずつ互いを想い合いながらも上手く甘える事のできない不器用さにもどかしさを感じる。
スーパーの人々は皆ある程度の距離を保ちながらも、時に家族のような温かさを持ち、どうでも無いシーンでさえも自然と涙がこぼれてしまう。

「死」という悲しく重い出来事でさえもまるで日々の流れの一部の如く穏やかな映像で描かれる本作は、世界の片隅に生きる人たちを優しく見つめ、懸命に生きるその姿を応援しているようにも見えた。
エンドロールまで美しく、一貫した世界観のおかげで切ないのに心地よい余韻に包まれる。
「孤独」と「温かさ」相反するものを美しく描き最初から最後まで監督のセンスを感じる作品でした。
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