ノラネコの呑んで観るシネマ

空母いぶきのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
3.3
もし現在日本が武力攻撃を受けたら、その時現場では、官邸では何が起こるのか。
共同脚本の伊藤和典が、平成ガメラでやったシミュレーションの軍事版だ。
軸となるのは、西島秀俊と佐々木蔵之介の空母いぶきの対照的な二人のリーダー、色々話題になった佐藤浩市の首相。
いかにして状況を拡大させずに目的を果たすか。
「戦闘」と「戦争」の意味づけの違いが、絶対的な壁となる展開はいかにも日本的でリアリティがある。
だが、原作では中国だった相手が、フィリピンの北にある3年前に建国したばかりの超民族主義国家って設定はどうなのよ。
沖縄くらいのちっちゃな島国が、大国でも維持が難しい空母機動部隊を擁して、何百倍も巨大な日本に喧嘩を売るってあり得ない。
なんでこんな無理な設定にしたのか?邦画独特の自意識過剰な忖度か?と訝しんでいたら、その理由は映画の最後に明らかになるんだな。
実質オリジナルの話に、どうオチを付けるのか。
本作は、原作者かわぐちかいじのもう一つの代表作「沈黙の艦隊」を、強引に合体させるという奇策に出た。
なるほど、これでは相手が中国だと成立しない訳だ。
しかし、この結末は希望的ではあるが、本作の“シミュレーション”の中で一番リアリティ無いわなあ。
これだと、相手の“後ろ盾”は結局どこ?ということにもなってしまう。
なかなか見応えある映画だが、最後に突然違う作品になってしまった違和感は否めず。
3人のリーダーの人物造形は良かった。
自分の身の丈を超える事態に苦悩する、佐藤浩市の首相像は現実より立派じゃん。
本作は力作だが、今ひとつ突き抜けない理由は、現実との乖離にあると思う。
映画では、執拗に専守防衛の意味が問われ、空母保有反対運動も起こる設定だが、現実にはいずも、かがの空母化は大した反対もなく決定した。
現実の日本は、既にこのフィクションを踏み越えて進んでしまっていることが、本作に感じるモヤモヤの正体かもしれない。
その意味で、この映画に描かれる平和国家・日本そのものが、理想化された存在に感じられてしまう。
首相はじめ政治家たちが真摯過ぎることも含めて。
もし10年前に作られていたら、もっと説得力があったかもしれない。