チキン女郎

ウトヤ島、7月22日のチキン女郎のレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
3.7
2011年7月22日ノルウェーのウトヤ島で起きた銃乱射事件(単独犯では史上最大の69名殺害)を疑似体験できる地獄みたいな映画だった。

実際の乱射時間72分をワンカットで撮影。銃声も実際の事件と同じ540発だそう。

銃声の音がこれ程怖いと思った事は無かった。アクション映画の銃撃シーン見ても怖いと思ったことないし、むしろカッコいいと感じたこともある。ゲームで人を撃つことに対しても特段何も感じなかったけど、これを見て改めて銃の怖さや人を撃つ行為がどれ程暴力的なのかを思いしらされた。

とにかくリアル感と緊迫感が凄かった。ワンカットなので本当に自分もその場にいるようだった。人が撃たれる描写や犯人の姿が見えるシーンがほぼ皆無なので、今何が起こっているのかや、犯人の人数も不明で怖さや不安感が倍増!!!どこから撃ってくるのか分からない恐怖!!ライフルだから撃たれたら確実に致命傷になる!怖!!!2発連続で聞こえるのも怖!!確実に殺しにかかってる!!!恐ろしすぎる!!!

始終聞こえる悲鳴や泣き声、銃声の音が近くなったり遠くなったり、銃声が止んで、終わったか?と思いきやまた銃声で心休まらない。

一番印象に残ったのシーンは中盤で主人公が負傷した少女を介抱してあげるところで、この少女の演技がめちゃくちゃ凄かった。本当に人が死んでいく瞬間だった…
実際もこうやって友達や家族が無念に死んでいくのを見ていた人が大勢いたんだろうな…

自分がもしこういう事件にあったら死んだふりしてやり過ごそう!と考えてたけど、調べたら犯人は生きてるかどうか蹴って調べたり銃で撃ったりしてたようなので、この方法は確実じゃないんだな…

ノルウェーでは死刑や終身刑の制度はなく、驚くことに犯人のブレイビクは禁錮21年とのこと。(しかも刑務所のPS2をPS3にしろと要請してるらしい)
いやいや!おかしいでしょ?死刑にすべきでしょ!と思うけど、どうやらノルウェーの世論は違うらしい。

生存者は「暴力は暴力を、憎悪は憎悪をうみます。これは良い解決策につながりません。」と語り、ノルウェー首相は「相手をもっと思いやることが暴力に対する答えだということを示さなければならない」とスピーチ。
事件現場のウトヤ島には民主主義を問い、過激な極右思想、法制度、情報源を批判的に読み解く能力、ヘイトスピーチ、7・22に何が起きたのかを学ぶメモリアルセンターが建設され、「なぜ事件は起きたのか、同じような悲劇をどうしたら避けられるか。歴史から学ばなければ、また繰り返される」とウトヤ島代表は語る。

確かにそうだなあ…
扇情的に加害者の残虐性や被害者遺族の悲しみを強調するメディアによって「凶悪犯罪者は死刑で!」と単純論になりやすいけど、死刑にしたら事件が終わるわけじゃない。死刑相当の極悪犯罪を犯す奴は必ずまた出てくるわけで、事件背景を分析し、同様の事件を防ぐ対策に力を入れる方が建設的だし重要。(これが難しいんだよな〜)

ブレイビクが狙ったのは、政党の青年部だったが、テロ後、若者と民主主義の攻撃だとして、各政党への党員申し込みは急増し、政治活動に積極的な若者たちはさらに増えた。

ノルウェーの人々は暴力や憎しみの連鎖を辿らず、差別主義、排外主義と戦うのである。