ムーアの政治観や信念を支持するとかの観点ではなく、触らぬ神に祟りなしな隠されている闇に突っ込んで行った心意気と言うか彼の情熱や実行力、演出裁きなどは本当に素晴らしいと思う。
特に焦点が置かれている「無知を知ることの重要性」は今作の内容云々だけでなく全てに於いて通じるものであるし、国によって報道される画一的な視点とは異なる面から切り込んだ事実の羅列は単純に興味深い。
ドキュメンタリーではなくフィクションの映画であっても、表面上穏やかながらも深層で情報操作や印象植えをしているプロバガンダが存在しているのであれば、真正面から切り込んだことで反論されることもあれど個人の一意見としての主観的な今作の存在意義も十分にあると思う、
かなり難しい話であるが、無知な人たちに無知を自覚させるためのこれ以上ない親切設計であるので、詳細は理解できなくても疑問を抱かせるには成功しているし、自分で学ぼう知ろうと思えるきっかけにもなるし、煽動的過ぎるがゆえに逆に個人に考えさせられるよう意図している構成は非常に好印象。今作を見て「なるほど」と思ったり「なんて作品だ！」と怒ったり、結果ではなく感情を刺激されること自体が目的なんじゃないかと思えた。
ブッシュに対するプロバガンダは意図的過ぎるが、イラクの人たちや貧困ゆえ軍隊に入隊し血を流していく国民に対する真摯な姿勢と、実際に体験し生きている人々や死に直面した人々の姿は強烈で、正視できないほどに胸が痛い。
見えないところで故意に操作されているのかもしれない階級社会の闇や、貧困は社会政策の手にかかっているのかもしれない指摘など、アメリカだけでなく世界的にも通じる重要な「無知」を知らせてくれる傑作だと思う。
