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ナポリの隣人のfrancois708のレビュー・感想・評価

ナポリの隣人(2017年製作の映画)
4.0
原題 La Tenerezza は英語の Tenderness にあたる「やさしさ、愛情」のような意味。
やさしい気持ちは、ともすれば空回りしたり、届けたつもりなのに届かなかったり。
仲たがいしている病床の父のかたわらで娘が体調をたずね、近況報告をするのに父は何も反応しない。眠っているの? 意識不明なの? しかし娘が去ったあと、父はむっくりと起き上がる。全部聞いていたのだ。
同じような場面がもうひとつ。重傷を負って集中治療室にいる隣人の奥さんのかたわらで、老人が体調をたずね、回復を願いながら語りかけるのだが、彼女は反応しない。でもほんとうに聞こえていないのだろうか。いちどだけ目を開けたとき、聞こえていたのかもしれない。でもそれきり。
老人と隣人の奥さんがワインを飲みながら料理をする場面、それは生きている彼女と話をする最後の機会となったのだが、そこでも、彼女の最後の言葉「グラツィエ」は、帰ってゆく老人がドアを閉めた後に発せられる。せっかくのやさしいことばが、彼にはとどかない。
ラストシーンは、遠回りと空回りのあげくにようやくやさしさが届けられた瞬間、と言えるだろうか。
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