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告白小説、その結末の教授のレビュー・感想・評価

告白小説、その結末(2017年製作の映画)
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常に天才で居続けるロマン・ポランスキー。年齢に関係なく「変な映画」を撮り続ける才気と、撮り続けられる幸運によって、その「芸術家」の業を体現している唯一無二の作家。
その「業」については、Wikipediaを参照して頂くとして、作家と作品との距離感とは何かをいつも突きつけてくる。

というのも、それは本作が面白い「映画」だからである。
いわゆる「ミステリー/サスペンス」ではあるのだが、その大オチに向けての構成が素晴らしい。

小説家においての「書く/書かない」という行為は、本人の中で「書きたくないことが求められること」となりがちで、作品によって他者(読者)との最良のコミュニケーションであるはずが、直接的であれ間接的であれ、分断の苦しみがある。
読者は味方でもあり、自らの憂鬱を深める存在でもある。

それはもちろん「映画」も同様で、撮りたい映画を撮っていることには違いなくても、そればかりではいられない心象を読み取るのは容易い。
しかし、その心象を非常にシンプルな形で物語化し、エンターテイメントに仕上げている手腕というのが、相変わらずのポランスキーの熟練の技巧という気がする。

デルフィーユ(エマニュエル・セニエ)の「書く/書かない」という問題に対して、あるいは自身の「プライベートを切り売り」し、しかも「商業的に成功してしまう」ということに対して自己言及的なキャラクター造形。
そしてエル(エヴァ・グリーン)のミステリアスさと不穏さは織り込み済みとしても、ある種の「ミザリー」のような展開を彷彿とさせることがひとつの「ミスリード」になっているキャラクター造形の巧みさ。

特に「自身のトラウマを吐き出して小説にして書け」と強迫的に追及されながらも、その「共感」に引き摺り込まれ「フィクション」を書くためにエルに魅了され、エルの物語を書くために利用しようとするデルフィーユの業の物語に急展開させる、さりげなく狂気を描く描写は恐ろしくもあり、素晴らしい。

最終的なオチも含めて「ストーリーが途中から読める」ということに注視をするよりも、カッチリと作り込まれた画面や、編集、ストーリーテリングに、メッセージを後傾化させて描いているバランスがとても上品な映画だと思う。
とても面白かった。
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