ベルベー

騙し絵の牙のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

吉田大八監督のフィルモグラフィから考えたら意外なほど売れ線で作られてる映画だと思った。前二作がニッチを攻めすぎているというのもあるが笑、画面上で何が起こっているのか、登場人物がどんな気持ちでいるのかが分かりやすい。業界もの、かつミステリーということで下手にやると何が何だかになってもおかしくない。ので、そこは多分に意識したのでは。

出版業界ネタは、そんなに詳しくないけど(ないから?)成程〜と楽しく観た。そうだよね、紙の出版物しかも文芸なんて今は厳しいよね…でもトップは踏ん反り返っていることにリアリティを感じた笑。上には決して逆らわずおべっか使って、下には冷淡な態度。でも状況が変わったら掌返し。うーん、出版業界に限らず日本ではよく見る光景だなこれ。そういう意味では池井戸ものを思い出して、そういう側面もある作品なのかーと意外だった。

そんな旧態依然とした経営に風穴を空けるのが大泉洋。原作が当て書きだったんだよね確か。めっちゃボヤきまくるツッコミキャラというパブリックイメージの方が強い印象だが、こういう不敵な役柄もお手のもの。結構な暴言も暴挙も彼がするとなんか笑って許せちゃうので、確かにこの役は似合うわ。

彼に振り回される役どころの松岡茉優も良かった。ひたむきさも面白さもある。酔っ払うところとかアイツに対する「誰だよお前!」とかしっかり笑いも取っていく笑。彼女の信条と心情が一貫して描かれているから、最後に共感もできる。

しかしこの2人の関係性とか最後の雰囲気とか、邦画というよりハリウッド映画ぽいなと思った。「プラダを着た悪魔」という感想を見かけたが、確かに。個人的には大泉洋のキャラに「マイレージ・マイライフ」のジョージ・クルーニーを思い出したり。ジョージ・クルーニーとかブラピとかマコノヒーがやってそうなキャラじゃないあの主人公?なんかサーチライトとかパラマウントでやってそうな。そう考え出すと、作品自体そんな雰囲気な気がしてくる。良い意味でも、悪い意味でも。

つまるところ、話の狭さは否めないのです。池井戸ものの側面もあるなーとか書いたが、それらと違って出版社のお家騒動以上には広がらないのですこの話。生死とか家族とか、そういう人生のウェット方面の機微には触れてこない。今の出版業界はこう!トレンドはこう!って言われても興味ない人はふーんで終わるし。

ミステリーやどんでん返しを謳うにはちょっと弱い部分もある。というか、ラストは別にドンデン返しではない笑。仕掛け的にも、感情のドラマ的にも。高野に美味しいところ持って行かれた速水、と思いきや…?ならまだしも。コーヒー投げて悔しがる大泉洋の芝居は良かったけどね。

結局一番のドンデン返しは新人作家の正体だったわけだが、ちょっと予想できたとは言え、種明かしの仕方が面白くて楽しく観れた。宮沢氷魚とリリー・フランキーの使い方が絶妙で笑。マスコミに追いかけられる構図のコミカルさとか、ちょっとソダーバーグ思い出した。全体的にジョージ・クルーニーぽいのかな今回の大泉洋笑。ただ、これが中盤に来るのでじゃあラストはどんなに凄いドンデンがあるの…?と期待しすぎちゃったかも。そう思わせる宣伝のせいなんだけど笑。

あともう少しだけ難点を述べるなら(ごめんなさい!)、これは多分塩田武士の特性なんだけれども。実状を徹底的にリサーチするんだけど、その中でもセンセーショナルなネタを幾つも話に盛り込む人なのでちょっと展開に無理矢理感があるんだよね。ストーカーからの3Dプリンターとか。大御所のコミカライズ、モデルの小説、新人作家のデビュー作ひとつひとつは魅力かもしれないけど全部載せの雑誌は魅力的なのかな?とか。大作家の新作を独占販売する書店経営が成功するのかは…正直分からない笑。でも発想としては面白いと思った。こういう事業提案の側面があるのは塩田さんのユニークさだし、それは上記のようにリサーチしているからこそなんだけど。

演出領域で独特で素晴らしいと思ったのは音楽の使い方。LITEを起用するとは。ミュージシャンが劇伴を担当するパターン自体は珍しくないが、ポストロック、マスロック畑の人の音楽をここまで無農薬・産地直送ドストレートにぶち込んだ邦画は滅多にないのでは笑。ハイスイノナサの照井順政だって割と劇伴向けに整えるのに。しかも本作のような作品でこのテイストは一見合わない。しかし、この違和感が不思議とハマっているのです。作品にオシャレかつエモーショナルな雰囲気を与えている。
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