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若おかみは小学生!のmのレビュー・感想・評価

若おかみは小学生!(2018年製作の映画)
4.9
ポスターやタイトルを見た時は正直「う〜ん・・」と思ってしまったのだけど、監督が「茄子 アンダルシアの夏」の高坂監督である事とSNSでの評判がやたら高かった事から、映画館に足を運んでみました。これは正解、素晴らしい傑作でした。

一つ一つの描写が目眩がするほど細やか且つダイナミックで、作り手の登場人物達の心情への誠実さとアニメーションのダイナミズムへの信奉が見える。ちょっとした一つの動きを見ているだけで、なんだかもう感動してしまう。さり気なく実写的なカメラワークやレンズワークも凄い。
全体的に幼い絵柄なのにその裏には大人の真摯さがこもっていて、作品自体には大人の視点を感じた。大人にも子供にも通じる児童文学の世界。


観る前は親を亡くしたばかりの小学生の女の子が若女将になるという設定に日本的なスパルタ感を感じてしまい、勝手に危惧していたがそれは杞憂だった。
この手のものだと普通はあるような修行シーンや叱られる描写をほぼ無くして、『労働』の側面をあまり見せずあくまで主人公とお客達とのコミュニケーションの部分に絞る事で、旅館で働く事を彼女にとってのセラピーへとより強固に結び付けて、親を亡くしたばかりの小学生が労働している事の不自然さを打ち消している。
典型的な分かりやすいイヤな奴がひとりも出てこないのも良かった。原作だとあの敵対する旅館の女将も出てきたりするようだけどそこは割愛して、あのピンフリの女の子も彼女は彼女で誠実に真面目に生きている事をかなり早い段階から見せていて良い。
主人公が最初は受動的に事態に巻き込まれていくのだけど、それが彼女にとっては助けになっていてやがて彼女自身が能動的に動いていく、という流れも良かった。神楽にまつわる構成も綺麗に決まった。
女の子の心の回復と成長の物語として一本筋を通した脚色が全体的に上手くいっていると思う。流石の吉田玲子。


親を亡くした主人公の側には至る所に『死』と『喪失』の要素が忍ばせてある。二人の幽霊達や母を亡くした少年、そして何より生と死の境目があやふやな形で登場する両親の存在が大きい。その哀しみや痛みをしっかりと描いていて素晴らしかった。

主人公とグローリーのシスターフッドをみっちりと描いているのも好感を抱いた。


全てのドラマが収束するダイナミックなクライマックスとスパッと潔く幕を閉じるエンディングに感嘆。しばらく舞い散る花びらに余韻が残る。藤原さくらの歌もよく合っていた。
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