ナガタカエラ

翔んで埼玉のナガタカエラのネタバレレビュー・内容・結末

翔んで埼玉(2018年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

埼玉版『ロミオとジュリエット』に例えられる本作だが、否、埼玉版『レ・ミゼラブル』である。
東京都が絶大な権力を振るう世界で、被差別民として苦しい生活を送る埼玉県民達が反旗を翻す、というのが作品の基本プロット。物語は上述の物語を埼玉のFMラジオ局NACK5越しに聴く家族を切り取る「現代パート」と、前述の革命闘争を描く「伝説パート」を行き来しながら進行していく。
「伝説パート」では埼玉開放へ奔走するGackt達の英雄譚が続くが、見せ場は埼玉に住むレジスタンス達をアジる場面だろう。内輪揉めをして一向にまとまる気配を見せないレジスタンス達を前に、ださいたま、くさいたま、しんきくさいたま、とまくし立てるように罵声を浴びせ続けるGackt。そこに現れるのが、学園で埼玉出身が故に虐げられていた加藤諒。「もうやめてくれ、みんな悔しくないのか」と説得に入り、埼玉レジスタンスがまとまり始める。そこで加藤諒が放った「何もないけどさ、住みやすくていいところじゃんか」という台詞。これ以上の郷土愛があるだろうか。思わず落涙の一幕である。
様々なローカルネタを盛り込んだが故の物語なテンポの悪さは否めないが、それに勝る埼玉ナショナリズムとレミゼラブルばりの革命精神と戦闘描写で気分が盛り上がる傑作だ。
そして特筆すべき点は、物語の収束の仕方である。「伝説パート」が革命の成功に終わり「現代パート」でその英雄譚を聞いていた人々が物語に感動した埼玉への認識を新たにする、というところで終わるのかと思いきや、NACK5でその物語を伝えていたのはGacktとその相棒二階堂ふみということがわかる。そう、現実に彼らは存在して、東京を打倒し、次は日本を、いや世界をも埼玉化しようとしていたという、『ネバーエンディングストーリー』的なメタ構造の物語だったのだ。この脚色はもちろん映画オリジナルの展開であり、映画体験としても刺激的な展開だ。
メタ構造が明らかになって以降パートのなかなか映画がオチないテンポの悪さは若干気になる所ではあるが、エンディングがスターウォーズ4のエンディングのパロディで締まるのは個人的なツボをくすぐられた。サントラもモロに「王座の間」で笑ってしまったのだが、カット割りに詰めの甘さを感じた。加藤諒が吠えて観衆の拍手で終わったら本作は500億点だったが、それこそ蛇足というものであろうから置いておき、エンドロールのはなわの埼玉の歌でもう一盛り上がりできる仕掛けもあり、エンターテイメントとして大サービスな一本。
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