かつてアッバス・キアロスタミの弟子だったジャファール・パナヒが、キアロスタミ映画のオマージュたっぷりにイラン社会における女性の立場を表現した力作。
パナヒをはじめとする出演者が全員本人役というのもユニーク。明らかにフィクションなんだけど、ちょっとドキュメンタリーみたいにも見えるのは、「そして人生はつづく」のよう。
山道を行く車の車載カメラの長回しとか村の家でのやり取りを正面から捉えたショット、何よりも「オリーブの林をぬけて」を思い出させるあのラストカットまで、キアロスタミオマージュのオンパレード。
冒頭、車の中でパナヒと会話するジャファリのアップだけで持たせるのも凄いけど、その後、車から出た彼女をは車内のカメラが360度パンで追うところが面白い。
なんと、車の中にいて会話の相手をしていたはずのパナヒが、全く映らないのだ!!まるでジャファリが一人芝居してるみたいになり、え、どゆこと!?ってなる。
でも面白いのは、その後はキアロスタミ映画のような人々の交流に徹したドラマではなく、自殺した少女の行方を探すノワール映画みたいになっていくこと。
アルモドバルの「オール・アバウト・マイ・マザー」のように様々な世代の「女優」のドラマになってはいるが、革命以前に活躍した幻の大女優は、ついに画面に現れないのも、ちょっと考えさせられる。
チンコの皮を大女優に渡すジジイのくだりとかはちょっと余計に思えたし、後半失速した感は否めないが、それでもあのラストカットは良い。
画面左下に出来た蜘蛛の巣を作ったのアイツやろなあ、って想像できちゃうのも楽しいし、それでいてちゃんとイランの女性問題に向き合ってるように見えるし、チャーミングなラストだと思う。
それだけに、パナヒの師匠であるキアロスタミの生前のレイプ疑惑が出たのは、かなり悲しい。