ジーハ

存在のない子供たちのジーハのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.5
ここには神様なんて存在しない。

観ながらずっと思ってました。
ここでの神の存在はただの現実逃避で、
不幸を紛らわし秩序を統制するために
人間が創造した産物あるいは空想でしか
ないんじゃないかって。

だって、もしいるんだったら、
1人でも多くの子供たちを救ってほしい。
1人でも多くの悪い大人を罰してほしい。
劇中何度も何度も繰り返し祈っても、
ここでは何ひとつ変わらない過酷な現実
が続くんです。

人をだましても、物を盗んでも、嘘をたくさんついてもゼインは人として失ってはダメなものをちゃんと知ってるんですよ。
なのに大人は自分のためだけに嘘をつく。

ここでの大人が命をかけても守りたいもの
っていったいなんなんだろう。

両親がいくら悲惨な貧困生活を嘆いても、
罪を犯すのは子供のためと叫んでも、
子供の死を哀しみ涙しても、子供に何も与えず奪ってるだけの彼らの言葉はゼインには響かず全て嘘へと変わってしまう。

社会が悪いのはみんなわかってる。
でもそうじゃなくて、命をかけて子供を守りきるのが親だろ!と…私にも彼らの言葉は薄っぺらな保身的な言い訳にしか聞こえてこなかった。

もし、彼らにまともな愛があり、生まれてくる命を愛しいと思うなら、どうしてこんな世界で子供を産むのか。「僕」を産んだのか。

そしてこれを否定してあげられないこの悲しい現実。こんなの辛すぎるけど、ゼインの気持ちが理解できた。

法廷から始まり、過酷だった日常を遡りながら話は進んでいく。ぐいぐい引き込まれていく二時間。ドキュメンタリーのように自然に見えるのは、色彩やカット、編集やストーリー構成全てが繊細に作り込まれてるからなんでしょうね。

あとゼイン(ゼイン・アル・バッジ)の瞳が悲しくも美しく印象的で、自分のためじゃなく人のために流す彼の涙がたまらなく切なくて胸をしめつけた。
(…これが初めての演技だなんて思えない)

全編にわたり悲しくて辛いことばかりです。
見終わってからも自分の感情の行きどころが
みつからなかったです。
でもそんな過酷なゼインの現実を見届けた
あと、たどり着くラスト…。
今年これ以上の作品が出てくる気がしません。

軽く観れるテーマじゃないけど、ぜひ勇気を持って観てほしい。その分何か熱く深いものが心に刻まれる素晴らしい作品だから。
ジーハ

ジーハ