Inagaquilala

存在のない子供たちのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.0
中東発の作品は、どれも人生や社会について考えさせられる作品が多い。昨年で言えば、この作品と同じレバノン発の「判決、ふたつの希望や」、イスラエルの作品「運命は踊る」、どちらも深く心の奥にまで刺さる作品だった。この作品もレバノンのナディーン・ラバキー監督が、長編デビュー作の「キャラメル」以来、5年ぶりに本格的にメガホンをとったもの。前作は、ベイルートの美容室を舞台に、店で働く女性たちと、その周囲の人々の人間模様を描いた群像劇だったが、今回の作品はうって変わって、出生届もなく、IDも持たない移民の家族を描いたシリアスなヒューマンドラマになっている。

作品では、ラバキー監督は、愛情に恵まれぬ貧しい12歳の少年を主人公にして、中東の貧困や移民問題を見事に浮かび上がらせる。少年ゼインの妹が、お金のために無理矢理はるか年上の男と結婚させられてしまう。両親の処断に反発したゼインは家を飛び出し、エチオピア移民の女性と知り合い、彼女の赤ん坊を預かることになるが、女性は戻らず、ゼインは乳飲み児の世話をしながら街を彷徨う。この2人の姿が印象的に映し出され、否が応でもこの過酷な物語を受け止めざるを得なくなる。華やかな前作と比べ、かなりヘビーな内容ではあるが、訴えかけるものは、鋭く尖っている。ラバキー監督は、もしかしたらこちらのほうが真骨頂なのかもしれないと思わせると力作だ。いずれにしろ、この女性監督の作品は、次回作も注目しなくては。2018年の第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品。
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