のんchan

存在のない子供たちののんchanのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0
長い年数映画を観てきたが、ここまで心を射抜かれた作品は無いかも知れない。

冒頭から呆気にとられ、流れる映像を止めたくなる程に絶望感が漂う。
あまりに凄まじくて、頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が走る。涙が止まらない。
しばらく食べ物も口に出来ない気分だ。

まず、この作品を脚本し、撮影したナディーン・ラバキー監督に惜しみない拍手を送ります。
よくぞ、この世界で起きている残酷さ、難民の飢餓の実情を伝えてくれました。
日本はなんて豊かな国だろうと、つくづく再確認する事が出来る。


冒頭、主役の12歳の少年ゼイン(実際にシリア難民で監督がスカウトしたゼイン・アル・ラフィーア)が両親を告訴した法廷から始まる。裁判長がゼインに問う。「何の罪で?」ゼインは強い眼光でこう言う。『僕を産んだ罪』と。

貧困の中で生まれた少年は、両親が出生証明の手続きをする事がないため、誕生日がいつで、自分が何歳であるのかすら不明なのだ。IDが無いので仕事をする事すら出来ない。
ゼインには可愛がっていた仲の良い1歳下の妹がいた。ある日、妹に初潮が訪れる。それは結婚へと繋がると感じたゼインが親に隠して汚れた下着まで洗ってあげる。その後にゼインの恐れていた事が起きて...
愛する妹と将来への希望を奪われたゼインは親を棄てて家を出る。その後も食べる為に知恵を働かせて生き抜くが...
偽造パスポートで国外逃亡を誘われ、それに必要な身分証明書を探しに家に戻ったゼインはそこで妹の死を知る。涙を流し抑え切れない感情のまま衝動的に起こした行動で手錠が掛かったのだった。


親の虐待や育児放棄、違法売買などの社会的問題点を露にした映画ですが、問題点はそれだけではありません。
ゼインが経験した「あなたのIDは?」「あなたは誰だかを証明する書類は?」と度重なる質問をされる。
ゼインの心を理解しよう、助けようとするよりも先に、ID書類を見せることを重要視している社会形態にも大きな問題があるのでは?

ゼインは5年間の服役を強いられるのですが、知恵の働くゼインは生放送中のTV番組へ刑務所から電話をして、親を起訴する計画を喋ります。それで世の中に知られて違法売買のあぶり出しにも繋がります。

ゼインのように、勇気を持って行動を起こし、自分の心で感じていることに自信を持つことができる人間が増えたとしたら、世界はどんどん改善されていくのだろうと感じました。

最後に映し出されるゼインの笑顔は映画の中で初めてですが、とてもとても印象的です。



Ps...それはそれは素晴らしい演技をした主役のゼイン君は、撮影後に家族と共にノルウェーに渡り、学校へ通っているそうです。
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