映画漬廃人伊波興一

イメージの本の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

イメージの本(2018年製作の映画)
4.9
この翻弄には従う価値がある
ジャン=リュック・ゴダール「イメージの本」

たとえいなくてもさして気に留めぬよう努めていたつもりですが、その存在が久しぶりに現れるとやはりある種の懐かしさすら覚えてしまいます。
懐かしいとは言っても前作「さらば、愛の言葉よ」が2014年。前々作の「ゴダール・ソシアリスム」でさえ2010年ですから、ひとりの映画作家が一本の映画を撮り上げる事が困難な現代では、さほど驚くほどの隔たりがあるわけでもないのですが何しろ相手が相手なだけにいつになく新鮮です。
私たちはその新作「イメージの本」に縫いつき、あたかも点検するみたいに画面のあちこちを調べ、私たちが知っているゴダールと、そして引用でコラージュ化された数々の映画群がそれまでと寸分違わぬ事を確認します。

ですがナレーションも担当しているゴダールにわざわざ問う必要もない。
それでも私たちは「イメージの本」を観て不思議な安堵を覚えるのです。
そんな安心感が一体どこから来るのか、ことさら探ってみようという気になるわけでもありませんが、「イメージの本」の中、ゴダールがあたかも曾遊の地に戻ったかのような映画コラージュにより、私たちはゴダールの身を案じているのではなく、ゴダールがいなくなった時の我が身を心配しているのだ、悟ります。

映画を観る幸福が何かを一瞬で教えてくれ、自分たちは不幸ではない、と画面全体で言ってくれる相手を失いたくない事に気づき、ゴダールが刻んだ映画の轍に翻弄されていた事実が間違っていなかったことを思い知るのです。

映画コラージュを休み休み歩きながら、語るべきものを語り、観るべきものを観るゴダールは、私たちの視線に気づくたび、さまざまに生き続ける映画の数々の印象を胸のうちに取り込み生き延びる糧としているよう。もはやゴダールが映画を必要とするのでなく、映画そのもがゴダールを必要とする境地。

この翻弄には従う価値がある、と思う所以です。