キナ

アップグレードのキナのレビュー・感想・評価

アップグレード(2018年製作の映画)
4.0
緻密で計算高く無情で残酷、目にも止まらぬ豪速のAI人間によるガンギマリアクションに狂喜乱舞していたら、いつの間にか突き落とされていた恐怖の世界。
オープニングがかっっっこよすぎる。
ブラックホールのように吸い込まれる描写はこの物語を暗示していたのかしら。

さりげなく洗練されているようで、しっかりコテコテのモダンフューチャーも感じられる近未来のモチーフが好き。
もう観てるだけでワクワクしちゃう。
油に塗れて車をいじるグレイと最先端の人工知能車を乗りこなすアシャの対比が面白い。
車庫からの住まいのギャップよ。

事件が起こるとわかっていても悲しくなるその境遇。
四肢麻痺になって光を失ったグレイの目、固定された手の形、何度も薬を投与する姿はショックそのもの。
STEMを埋め込まれてからのファーストムーブにえらく感動してしまい、鳥肌が立った。
身体が動くって、こんなに嬉しいことなんだな。

グレイ&STEMのバディの成り立ち方にワクワク。
ちゃんと頭の中で響いて聞こえる音響に感謝。
AIすげえ!私もチップ埋め込みたい!
などと思いつつ、常に監視されてるのはちょっと嫌だな。USBみたいに都合の良い時にだけぶっ刺せればいいのにね。

STEMに身体を任せたアクションのあまりのトンデモっぷりにはお口あんぐりである。
とにかく速く、システマチックで無駄の無い鮮やかな動き。
いちいちブォンッと操作音鳴るの好き。
気合の入ったゴア描写も大好き。

しかしこれは単なる復讐劇にあらず。
グレイに確固たる殺意は無い。
自らの身体が下した冷酷な仕打ちに戸惑い恐れる彼には、とてもじゃないけど「いけー!殺せ殺せ殺せー!」と激烈痛快な応援などできようもない。

物語が進むにつれて不安が深まってくる。
その頂点、未知なる狂気に身震いした。
自動運転、スマートスピーカー、介護ロボット、今現在の身近に溢れるAIやデジタル機器に微かに抱いていた不信感を引きづり出された気分。

便利さの反面、融通の効かないもどかしさ。
人間の脳みそより遥かに有能なコンピュータへの畏れ。作ったのは人間なのに。
自分より優れたモノを生み出すことができるって、人間はすごいな。使い方は人それぞれだけれども。

「人生のやり直し」というワードが出てくる。
自分にとって何が幸せなのか、何が大切なのか、何をしたいのか。見えなくなった時が一番危険。
どうしたって歩きやすい道を選びたいから、そこにつけ込まれる。
やり直しを選んだ先、目を覚ました先の美しさが虚しい。
見かけ倒しの逃げ場でも、本人が良いなら良いのかな。妄想癖でいくつも脳内現実持ち歩いて生きている私も人のこと言えないわ。

一つ一つの要素はありがちながら、その混ぜ込み方と設定の面白さでかなり美味しく味わえる楽しくて怖い映画だった。
殺人マシーンみたいなAI人間の仕組みが面白すぎて、彼らについてももっと掘り下げて欲しかった。

ああ〜それにしても、今この時、指先を動かしてスマホをいじれる幸福よ。
キナ

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