すずき

アメリカン・アニマルズのすずきのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
4.0
ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の学生スペンサーとウォーレン。
平凡な学生だった彼らだったが、ある日図書館に所蔵される超高価な貴重本「アメリカの鳥類」を強奪する計画を立てる。
友人のエリックとチャズの2人も加わり、計画は進んでいくのだが…
この映画は実際の事件とその顛末を描いた、「事実」の物語である。

事実を基にしたクライム・コメディ映画かと思っていたら、思った以上に自身に突き刺さるクライム青春ドラマだった。
実際の事件の当事者であるスペンサー達本人が、現在の姿で映画に登場するドキュメンタリーチックな演出が、冒頭に示される「事実である」という文言を意識させる。
そして、映画で描かれるのは彼らの証言の再現ドラマなんだけど、証言が食い違う所は、そのどちらもが事実として描かれる、という奇抜な演出!
例えば、二人の証言が「この話は車の中で聞いた」「パーティー中に話した」と食い違うと、片方の視点では画面は車内だが、もう片方に視点が切り替わるとパーティー、と画面も変わる…など。
突飛なコメディ描写かと思ったが、それがこの映画のテーマを語る上での伏線になっていたとは!

彼らが事件を起こすに至った動機は、青臭い青春を過ごした人たちには非常に共感出来る物だ。
…周りは悪い環境ではないし(アメリカで17番目に良い環境、という中の上感もシンパシー感じる点)、金にも困っていないが、何かが足りない。
つまらない奴らばかりのつまらない日常。
自分もいずれ飲み込まれていくのだろうか?
人並みの小さな喜びや苦悩はあるだろうが、何も大きなドラマも無く、「普通の人」「どこかの誰か」にカテゴライズされる人生だろうか?
そんなのはまっぴらゴメンだ!
何でも良い、現実に風穴を開けたい、自分は(自分に)「その他大勢」とは違うと証明したい!…
きっと多くの人が似たような思いを抱いたことはあるだろう。
そして仲間たちと1つになり大きな目標へと挑む楽しさも相まって、どんどん計画は進んでいく。
彼らには、何度でも計画を止めるチャンスはあった。
しかし彼らは、たまたま何かの歯車が偶然に噛み合い(止めようと決心した矢先に「アメリカの鳥類」と同じフラミンゴを見た、とかそういった偶然で)、とうとう止まれずに一線を超えてしまった。

しかし完璧に見えた計画、簡単だった仕事は、実際に決行すると思った以上に穴だらけで、思った以上に自分自身の弱さと無知を知ることになる。
コメディなら間抜けな犯罪者として笑えるのだが、これまでの過程を見ている自分にとっては、他人事ではない、彼らは自分なのだ。
下らない失敗に対する怒り、誰かを傷つけた事への嫌悪感、捕まるのではという恐怖、そして罪悪感…それは罰を受け罪を償う日まで終わらない。

事件によって、彼らは何を学び、何を得たのだろうか。
そうした教訓や解釈は観客に委ね、この映画内では遂に示されなかった。
なぜなら、この映画は「事実」を描いた映画であり、それだけを描く映画なのだから。