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ペット・セメタリーのMOCOのレビュー・感想・評価

ペット・セメタリー(2019年製作の映画)
3.0
「世の中にはあるのさ、古い土地がな。
 理屈では絶対に説明できない土地だ。硬い土の下で何が起こるのか誰も知らない。
 だがなルイス、男の心も岩のように硬い」


「ペットセメタリー」は、学生時代に読んだ堀勝治さんの詩「随想」を思い出させます。
 堀勝治さんは1969年20歳の時、自ら命を絶たれた学生さんです。1974年彼の日記に家族や知人や想いを寄せる女性へ宛てた手紙と、彼が書き留めた小説や詩を時系列に織り交ぜた遺稿集が出版されています。

 都会の生活に疲れた医者のルイス一家は郊外の一軒家に、引っ越してきます。土地の契約の中に家の裏手の広大な土地も含まれていて、そこには地元の人達のペットの墓地があり、その奥には死んだペットを埋めると生き返ってくる先住民の禁断の場所があります。
 娘のエリーは向かえに住む老人ジャドと仲良くなり交流がはじまります。
 そんなある日エリーが大切にしている猫のチャーチがトラックにはねられて死んでしまいます。無惨な死体を娘に見せたくないルイスはジャドと墓地にチャーチを埋めに行くのですが、エリーを可愛く思うジャドはルイスに禁断の土地にチャーチを埋めさせます。すると翌朝チャーチが帰ってくるのですが、気性が荒くなり以前とは違う猫になっていました。
 不思議な体験をしたルイスはジャドから禁断の土地の秘密を知らされるのですが不気味な話のため妻のレイチェルには内緒にしてしまいます。

 禁断の土地、先住民の土地「ラドロウ」・・・。
 チャーチに恐怖を感じたルイスは車でチャーチを捨てに行きます。
 そしてエリーの誕生会の日、エリーは探していたチャーチを家の前の道路に見つけ思わず駆け寄り抱き上げたとき不幸にも交通事故に巻き込まれます。
 葬儀を終え、家を引き払うため妻と息子を実家に帰したルイスはジャドを睡眠薬で眠らせ、エリーの墓を掘り起こし遺体を禁断の土地に移し変えます。
 ルイスが隠れて何かしていると気付いたレイチェルが息子と共に家に戻るとそこには・・・。

 何の情報もなく観はじめると『ターミネーター:新起動/ジェニシス』で「ジョン・コナーがターミネーターだった」とんでもない展開のジェイソン・クラークが主人公ではないですか、いきなりトホホな展開です。役者が悪いわけではないのですが、この人なんだかそんなイメージになっちゃいました・・・。

 今回の「ペットセメタリー」は、三池 崇史監督のごとく、89年の「ペットセメタリー」の完コピ映画がやってくると思っていた(言い過ぎですか?)のですがやられました。 前作は幼い弟を甦らせる話でしたから、小さな男の子の演技力に限界があり、後半は人形劇みたいでした。
「そうかお姉ちゃんを使ったのか・・・」という展開は斬新さがあり、後半の展開がスムーズでした。私は原作は読んでいませんが、前作は脚本をスティーヴン・キング自身が行っていますから、大きな冒険ですよね。
 前作と違い猫のチャーチも不自然さがなく違和感のない出来上がりでした。ただ、もう一つのエンディングも含めてあの家族が家族として生活することに何の意味があるのかが疑問として残る映画でした・・・。
 でも、まぁジェイソン・クラークのイメージは少しだけ良くなりました。
 
 日本にも甦りの話は数多くあるのですが、高野山で一人になった西行法師が、人恋しさのあまり「反魂の術」を使い、白骨から人を作ったが、姿こそ人であったが、人の心を持ち合わせていなかったという話に似ています。西行法師は産み出した人間のような生き物を殺生することが出来ず、高野山の奥に放置したと『撰集抄』記されているようです。

 事故で家族を失うなんて全く考えられないことなのですが、人の死はそっとしておかなければいけないものなのです・・・。


  随 想  (堀 勝治)
踏み切りのまん中で遊ぶ子が
あっというまに飛ばされた時
三人の人生がおわる。
父と母とその子の。
土に沁む涙をそっと握りしめて
彼らはこの土地を去っていった。
大きな十字架を残して
去って行った。
あとにのこされた十字架に
祈りをささげるこの私は
その子の頭を撫ぜたことがあるだけに
その子と遊んだことがあるだけに
切なく胸をむしられる。
涙と十字架と夕暮れが
そっと私を包んだとき
どこからかふっとその子の
声が聞こえるような気がした。
その子の声のような気がした。
夕暮れが暗闇にかわっても
狂った私は動かない。
星も月も何もなく
白く大きな十字架の前に
深く頭をたれて
いつしか私は夢をみる。
ぼんやりとつかみどころもない
ただただ長い夢を見て
ほほから胸に流れてくる
涙にふと我にかえる
そこにはもう十字架はなく
事故をつげる一枚の新聞と
二、三の小石があるだけ。
黒い小石をポケットにいれ
力無くたちあがって
とほうもない国へと
また帰っていくおれ。
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