サンヨンイチ

小さな恋のうたのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

小さな恋のうた(2019年製作の映画)
3.9
こちらも公開規模が大きくなく、
それでいてヒットした邦楽を題材とした青春映画。ともなれば若手俳優達のファンムービーよろしく、物語の前後を無視した糞展開な作品なんだろうな、と公開前はたかをくくっていましたが、
評判も良く、6月1日ということで半信半疑で鑑賞。

冒頭20分くらいか。こんなレベルで邦画は止まっているのかと愕然とし心が折れかけたところ、観客を裏切る展開が繰り出されるや否や、
その評価が尚早で浅はかであったことに気づかされる。猛省。
それでも冒頭はやっぱり明らかに変。テイストが違いすぎる。恐らく意図的に青春映画のエッセンスを詰め込んだシークエンスで、その後の無情で現実的な展開との対比となっていると思う。

青春×音楽×社会問題という、これまた詰め込み型の作品だが、今作においてはただミックスしている訳ではない。
沖縄米軍基地問題という、ナイーブで局地的な問題にたいし、青春や音楽という誰もが通ってきたコンテンツと視点で描くことで日本全土で向き合っていくことを提唱提案する作品。

確かにこの問題について思い返せば
基地は必要か不必要か。
オスプレイは安全か危険か。
どこに置くべきか。
という議論ばかりが先行し注目が集まっているが、
この映画が捉えている事象も決して蔑ろにしてはならない重大な問題であると思われる。

勉強になった、とか、知識が増えたということではなく、
米軍基地問題ないしあらゆる社会問題を考える際の
心の厚みを増してくれた、そういう作品であります。

楽曲が素晴らしいことは周知だが、
演者の歌もうまいし、各所で絶賛されている山田杏奈の存在感を真正面から受けてしまった。
さむいシーンも決して少なくないが、
そういった青さも含めて学校生活のかすかな香りを忠実に再現しており、リアルさも申し分ないように思う。

ただ観客のノリが良すぎるのは気になるところ。ご都合主義的にバンドが絶賛されていくのはいかがなものかと思わなくもない。
あと、野球部とかライブさながらのノリで聴くわけない。野球部は軽音部とかの軽くモテちゃう感じに嫉妬の念を燃やし、その燃焼力が彼らのパワーになるのだ。

屋上ライブも相当かっこいい、映像的見所は屋上ライブと山田杏奈とトミコクレア。

昨今の邦画のどうしようもない映画が跋扈するなか、面白い作品も生き続けていることを感じた。
何でも一括りに食わず嫌いしてしまうのはよくなかったです。
素晴らしかったです。