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つかのまの愛人のSY3KRのレビュー・感想・評価

つかのまの愛人(2017年製作の映画)
3.5
フランスの名匠フィリップ・ガレル監督が、『ジェラシー』『パリ、恋人たちの影』に続く3部作の完結編として手がけたラブストーリー。全国のミニシアター数館で公開されたが、現在も配信やDVD化はされておらず、日本ではもはや見る手段がない。

全編モノクロの作品ながら、白と黒、そしてグレーの3色が織りなすトーンが非常に美しい。主演のルイーズ・シュヴィヨットはそばかす混じりの素顔からちょっとだらしない肉付きの肢体まで、持てる全てをカメラの前に曝け出した。しかし監督の計算されたクロースアップや絶妙なカットにより、決してその美貌が失われることはない。

あらすじは極めて平凡で、3人の奇妙な共同生活は機械的なナレーションと共に淡々と処理されていく。だが、表面上は円滑に見える暮らしの中に、どうしようもない愚かさ・利己心がぽつぽつと染みを作るように浮かび上がってくるのが面白い。

性に奔放で浮気をするたびに理由を取り繕うが、結局は罪悪感からそれを隠し通せないアリアンヌ。愛し合っているから浮気は自由などと大人ぶった体裁を整えるが、アリアンヌを失うことを誰よりも恐れる、子供じみた気質のジル。彼氏が自分に未練タラタラだと小細工を図り、アリアンヌに秘密をちらつかせることで対等な人間関係を保とうとするジャンヌ。

人は誰しも他人から馬鹿馬鹿しいと思われる卑小さを備えているが、フィリップ・ガレルはあくまでもそれを人間臭く、そして美しく演出して見せる。父と娘が並んで散歩する何気ない日常のシーンが、いつの間にか「どう生きるべきか」を問いかける深遠さを放つ。こんな離れ業を当然のごとくやってのけるのだから恐れ入る。

⚫︎トマトメーター
・批評家支持率:82%
・観客支持率 :41%
「本作は非常に美しく撮影されているだけではなく、優れたパフォーマンスであり信じるに足る、魅力的な人物造詣をも提供している。」
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