SY3KR

ビューティフル・デイのSY3KRのレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
4.0
『少年は残酷な弓を射る』で激賞を集めたリン・ラムジー監督が、怪優ホアキン・フェニックスを迎えて送る異色のスリラー。

主人公であるジョーの感じる絶え難い苦しみが、じわじわと見ている者の心を蝕む。彼は幼少期に受けた虐待のせいで酷い自殺衝動を抱えているが、それと同時に生にも執着している。「死にたい」と「死にたくない」の間を繰り返す毎日だから、心は病むばかりだ。

母親のささいな言葉、ふと目にした光景、話しかけてきた人。ジョーにとってはそれら全てが何らかのトラウマスイッチで、気が休まる暇もない。そして、トラウマの根底には共通して「誰かを救えなかった」という無力感がある。ジョーはその最後の贖罪として母親と共に暮らしているが、映画『サイコ』にオマージュされる2人の関係は、不気味で危うい共依存でしかない。

ジョーのそんな毎日が、リン・ラムジー監督お得意のスタイリッシュな演出で刹那的に描かれていく。映画のランタイムはたったの1時間半だが、情報量はとてつもなく多いので、瞬きする間さえ惜しい。よくもまあ人間1人の絶望と救済を、ここまで端的に印象深く描けるものだと感嘆した。

主演を務めたホアキン・フェニックスのパフォーマンスも流石の一言だ。今の彼には「狂った死にたがりの殺し屋」を演じることくらい、造作もないだろう。

⚫︎トマトメーター
・批評家支持率:89%
・観客支持率 :64%
「ホアキン・フェニックスによる典型的な主演作であるこの映画は、脚本家リン・ラムジーが現代映画界で最もユニークで妥協なき声の持ち主であることを立証している。」
SY3KR

SY3KR