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幸福なラザロのSY3KRのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
4.5
前作『夏を行く人々』でも大いに注目を集めたイタリアの俊英、アリーチェ・ロルヴァケル監督が描く不思議な世界観のドラマ。

ちょっと聖書に詳しい人なら、本作が「ラザロの復活」と「金持ちとラザロ」の2つをミックスして、舞台を現代に置き換えた寓話だということはすぐに分かるだろう。そもそも2人のラザロは別人だから若干設定がいい加減なのだが、それでも監督の強烈な揶揄と皮肉が心に突き刺さる一作だ。

主人公のラザロは良く言えば純真無垢、悪く言えば愚鈍だ。喜怒哀楽の感情がなく、人から利用されても何も感じない。だから周囲の人間はそこにつけこんで、徹底的に彼をこき使う。酷い仕打ちを受けても、ラザロは顔色ひとつ変えない。

おまけに神の視点を思わせる俯瞰多めのカメラ・ノスタルジーを匂わせるスタンダードサイズのアスペクト比のせいで、こちらは村で起きている全てを「過去の出来事」として成す術もなく見つめるしかない。

嘘みたいな話だが、作中の時代錯誤な小作人制度による搾取構造は実在の事件に基づいている。羊と狼に比喩される「貧富格差」は現代でも形を変えて続き、狼はより残酷に狡猾に立ち回る。そして、それは誰にも止められないのだ。

後半になると監督のメッセージ性が露骨となり、ややバランスを欠いた「作りもの臭さ」も感じるが、37歳でこの完成度は良い意味で頭おかしいと思います。

●トマトメーター
・批評家支持率:91%
・観客支持率 :81%
「本作は友情の浮き沈みを広大なキャンバスとして用い、テーマ性と映画的深みに富んだ絵を描いている」
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