凛

泣くな赤鬼の凛のレビュー・感想・評価

泣くな赤鬼(2019年製作の映画)
4.0
第33回 高崎映画祭 オープニング上映。
群馬県前橋市出身の兼重淳監督が登壇。
高崎・前橋・安中でロケ。
全国公開よりも3ヶ月早い上映。

群馬県の高校野球のレベルが上がってるので、彦根東や東海大相模など、エキストラにも実力のある選手をオーディションで。
練習、試合共に迫力のあるシーンが撮れている。

高校時代の野球部の監督、小渕(堤真一)と元部員、斎藤智之(愛称・ゴルゴ)(柳楽優弥)が10年ぶりに病院で出会う。高校は辞めてしまったが、今は家庭を持っていた。
妻(川栄李奈)からゴルゴは余命僅かだと聞かされる。

10年前と現在の小渕の野球に対する姿勢が全く違っていた。
今はすっかりやる気を無くしているが、10年前は強豪校で熱心に指導し、赤鬼先生と呼ばれていた。
新しく入って来た部員、ゴルゴの思いあがった態度が気になった。
努力しなくてもセンスだけで実力のあるゴルゴは、地味なバントよりも勝手にヒッティングしてしまう。
ゴルゴにチームワークを学ばせたい赤鬼は、敢えてポジションを他の部員和田に任せる。。

背景は高校野球だが、先生の期待と生徒の希望のすれ違いが大きな溝になってしまった例。
先生が学ばせたいと思って、遠回りをさせようとするが、生徒は早く結果が出なくて投げ出してしまう。忍耐力のある生徒ばかりではない。
先生の一つの失敗が生徒にとっては一生を左右し道を外れることになってしまう。

高校野球をやる部員なら、誰でも甲子園に行きたいという漠然としたら目標を持っている。それが、もう少しで届きそうな場所にあったら、それは冷静さを欠き大事なものを失ってしまう危険性がある。
春の選抜、夏の選手権、1年に2回のチャンスに向けて皆努力するが、報われるのは一握り。
夢が敗れた後の部員がモチベーションを保つのはかなり大変。それは先生も同じ。
赤鬼も甲子園に行く前に燃え尽きてしまった。
大人になった和田は『先生の夢を叶える道具だった』と言った。和田の野球生活は虚しいものになってしまった。
中退したゴルゴの方がずっと野球を愛していた皮肉。

『キセキ-あの日のソビト-』では音楽を描いた兼重監督が野球を同じように丁寧に表現している。
高校入学から段階を踏んでいくので、野球シーンがかなり長い。
高校時代は若手キャストなので、柳楽優弥の出演は短い。
しかし、その中に病に対する絶望感と家族に対する深い未練が溢れていて、瞳は雄弁に語る。病魔に蝕まれた迫真の演技。
川栄李奈が不安な中でも気丈に振る舞う妻を好演している。

堤真一は、熱血教師の厳しい顔から、歳を重ねてうらぶれた様まで等身大の赤鬼だった。心震えるものがあり、やはり見応えがある。
『とんび』に次ぐ重松清作品だけに安定感がある。

ラストシーンは2人の心が通じ合った証拠が。原作にはない演出がされていて、これがとても気が利いている。
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