凛

オッペンハイマーの凛のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
人間関係が難しいとのことで原作既読。

ユダヤ系アメリカ人科学者の視点で追う、大恐慌、ファシズム、戦争、冷戦のアメリカ。
近代史が好きで、いつも日本からの見方をしていたので裏側から見る歴史は興味深かった。

原爆開発<赤狩り 
扱われ方は政治的な部分が多い。

アメリカに生まれ、欧州で勉強したオッペンハイマー(キリアン•マーフィー)にとって、欧州で起こるスペイン内戦やファシズムの台頭に対して無関心ではいられなかった。
科学者ながら政治との繋がりを戦前から持っていた。

ファシズムの台頭とアメリカの参戦により、ドイツよりも先に原爆を何としてでも作らなくてはならないと「マンハッタン計画」の極秘プロジェクトに参加する。
ユダヤ人としてドイツの脅威は相当なもので、欧州にいる同胞を救い出したりしていた。

1945年7月に「トリニティ実験」が成功した時、すでにナチスはヒトラーの自殺により降伏した後だった。
科学者は兵器を作ることは出来ても、使用するかは政治家(軍部)次第。
オッペンハイマーの考え方から徐々に離れていく。
このまま、原爆を使用せず、核兵器を世界管理しようという意見も出たが、戦後のソ連との関係を考え、結果的に広島•長崎に落とされることになる(ここの描写はラジオ放送のみ)

原爆よりも威力のある水爆を作ろうという計画にはオッペンハイマーは反対する。
戦争では軍事基地を標的に狙うが、水爆で狙うような範囲は広すぎて単なる広範囲の無差別殺戮でしかない。

アメリカとソ連の競うような核開発の世界で、オッペンハイマーはマッカーシーの赤狩りにより、共産主義との関わりをしつこく問われる。。

日本人としては原爆の実験成功の時の科学者の高揚した雰囲気などは見ていて辛い。
しかし、戦争相手を潰す意図としては当然。
原爆投下後の被害は具体的には描写されないけれど、オッペンハイマーが幻想に見る、女性の顔や炭化した子供が示唆している。

科学者の中にはマンハッタン計画に加わるのを拒否した者もいる「量子学を学んだ結果が大量殺戮兵器の製造は嫌だ」と。

マンハッタン計画には加わっていない相対性理論のアインシュタインもユダヤ人で故郷を捨てた。
オッペンハイマーはアメリカ生まれで、国を思う気持ちはあり、捨てることができなかった。
2人にはそれぞれ原爆に対して深い後悔の念がある。

幸いなことに長崎以降には核兵器は使用されていない。しかし、核兵器は今でも保有され続けていて、為政者が間違えば再び大惨事になる可能性を秘めている。
この作品が過去のことではなく、今にも繋がる危機として受け止めたい。
凛