ぽん

岬の兄妹のぽんのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
3.2
『最貧困女子』(鈴木大介著)というルポルタージュを読んだ時、生活苦からセックスワークに取り込まれていく若い女の子の実態を知って驚愕した。コロナ禍で女性の自殺が増えたという事実がすんなり呑み込める。こちらの作品もそんな最貧困な状態にある兄妹のハナシ。

知的障碍の妹にデリヘル嬢をさせる身体障碍者の兄という身もフタも無い設定がもう、勘弁してほしいなぁと気落ちするのだが、前述のルポなんか読んじゃうとこれに近いことはリアルにあるのではと思える。本音としては見たくない“真実”がこの世に厳然としてあることが分かってしまい、ヘビィさに引いてしまう。

しかしながら、本作は映画作品としてはなかなか良く出来ている。説明し過ぎないセリフの妙。緊張感をフッと緩めてくれるペーソスあふれるシーンの数々。序盤で登場する妊婦や、ジャマなものを壊すためのコンクリブロックという伏線の張り方。兄妹を演じる役者さんたちの確かな演技。ローアングルでぐんぐん引いていくカメラなど面白い画も散見された。

ふと「追悼のざわめき」(1988)なんて問題作が頭をよぎったけど、あっちほどのタブー祭りではないかな。逆に知的障碍の女性がセックスワーカーになることが割と現実的(前述のルポによれば)ってとこで、すでにタブーじゃなくて、今の日本の日常になっちゃってるのかもしれない。80年代の好景気ニッポン、一億総中流の時代に障碍者差別の問題をブチかました「追悼のざわめき」とは、むしろ対極にあると言えるのかも。

「万引き家族」(2018)の快挙もあり、数年前から貧困テーマはトレンドになってきてる気がする。行き過ぎた資本主義が格差社会を助長し環境も破壊し続けている。このまままでいいのか?という不安と疑問は、世界的な総意になりつつあるのか。

ともあれ。「自助でヨロシク」って弱者を切り捨てる今の日本社会の一側面が、確実に描かれている作品ではないかと思え、敢えてそれをやろうという気概は買います。ちょっとシンドイので大きな声でお薦めはしにくいけど。
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