賽の河原

この世界の(さらにいくつもの)片隅にの賽の河原のレビュー・感想・評価

4.5
日曜日に大手町来てますけど、時間潰すにも店がやってなくてね。デカいビルは死ぬほど建ってますけど、そびえ立つクソですね。本当に反省してほしい。大手町もクソだし、本作もテアトル新宿で観たんですけどね。テアトル系の会員カード、俺もってるのに一般料金でチケット購入しちまいましてね。本当イライラしますよね。
ということで2020年の最初の映画ですけど、大きなイベントがある、主語が大きな話題の多くなりそうな今年だからこそ、昨年のうちからこれにしようと決めましたね。
2016年の前作もバッチリ観てましたけど、filmarksとか見ると前作に対してイキリ倒していてね。なんか当時は無職でしたし心が荒んでたんですかね。すずさんとかいうヌポーっとした視点にピンと来てなかったっていうのもあるし、アニメーション映画としてよくできた演出、考証、方言など、言ってしまえばそんな簡単に魅力の全てを分かるんですかね?って世間に対してイキってるっていう...。救いようがねえな。
ただ、前作もその後繰り返し見たりしていくなかで毎回「あぁこの演出ってこんな意図があるのか」みたいな発見があってね。「やっぱり並外れて良くできてる映画だよなぁ」なんて思いつつ最近は夏休みの宿題とかに使ってますね。
とはいえ、やっぱり前作の構成で浮いていた部分ってのはあったと思っていて、リンさんや水原のエピソードはちょっとハマりきっていなかったと思うし、終戦の慟哭シーンとかも浮いてたと思うんですよね。「お前、それは原作読んで補完しろよ」って話なのは明白ですけど、私は狂犬なので「劇映画として完成したパッケージにしろや」って思ってたという。
そういう意味で片渕須直監督の今回の「さらにいくつもの」版は本当に見事な出来の作品ですよね。
もう前作のちょっと不安定な余白の部分を補完して、もう抜群の出来の映画になってますよ。エクステンデッド版というよりも、完全版と言うにふさわしい。
何より、浮いてた部分が補完されているということのみならず、その補完された部分を通して観ると、今までの描写そのものの見え方が全く変わってくるっていうところがチョー凄いと思いましたね。
例えば、序盤から追加された水谷の描写によって中盤のすずさんに起こる出来事の深み、周作さんの行動の意味も、前作に比べて格段にガツーンとくる。
そしてリンさんとのエピソードはもうこれ何を褒めればいいんでしょうな。もう原作そのものの出来の圧倒的な素晴らしさでしょうけど広島の呉に嫁いだ女性を主人公に描き出した意味しか感じない。広島という原爆のイメージ、そしてくれという軍港、軍港だからこそリンさんと会うわけだけれどもそのエピソードの深み、悲しさ、美しさが本当に素晴らしい。まさに一人の女性の視点から見事に当時の社会全体、そして戦争そのものを描いた傑作ですよね。
もう序盤にコトリンゴさんの音楽が流れた時点でぶへぇ...って感じですけど、新年早々涙腺への攻撃力が圧倒的でね。もう最後のエンドロールに至るまでぶへぇ...っていう。
本当に素晴らしい映画体験でしたね。実は、私この映画、テアトル新宿で観てたんですよね。テアトル新宿ではどういう試みかよく分かんなくて日本語字幕版が上映されてましてね。私は普通の字幕なしバージョンの回を買ったつもりだったんですけど、上映始まったら日本語字幕版で。「ありゃー、買い間違ったな」なんて思いながら観てましたが、この日本語字幕版も聞き取りづらい方言なんかが漢字混じりで写るんでシンプルに「あ、映画全体の意味が取りやすくていい補助になるなぁ」なんて観てまして。
3時間近い映画もあっという間で退屈せずバッチリ楽しんで劇場が明るくなると、劇場スタッフが入ってきてね。
「本来なら通常版流す回なんですけど、誤って字幕版上映してしまいました。申し訳ありません。」
っていう。
通常の私ならさながらヤクザスタイルで「アー?どう落とし前つけてくれるんだ?オラオラ!」と1時間はゴネるところでしたけどね。
映画があまりに素晴らしく、心が浄化されたんで、無事ににこやかに劇場を後にして、結局大手町にブチ切れてる次第です。
2020年、「寛容」を心に刻みつつ日常を楽しみたい次第ですな。
賽の河原

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